63.労いパーティ

「今日はなんのパーティ?」
 テーブルの上に並べられた料理を見て、无限大人は目を丸くした。
 私と小黒は目を見合わせて、笑い返す。
「无限大人の労いパーティです!」
「いつもありがとうって気持ちなんだ。ぼくも手伝ったんだよ!」
「私に? ……そんな、労ってもらうこともないのだが」
 无限大人は柔らかく微笑んで、小黒の頭を撫で、私に微笑んだ。
「とても嬉しいよ。驚いた。こんなにたくさん作ってくれたんだな」
「无限大人の好きなもの、全部作ろうって」
 肘子や東坡肉、ハンバーグなど、肉料理が中心だ。張り切りすぎたかもしれないけれど、きっと无限大人と小黒なら食べられるだろう。
「さあ、食べましょう」
「うん。いただこう」
「座って座って!」
 无限大人を囲んで、椅子に座る。ご飯を食べながら、お酒も飲んだ。思った通り、お皿はほとんど空っぽになった。
「さすがに食べすぎたかな」
「ぼくもお腹いっぱい」
 小黒はもう眠そうにしている。食器を片付けている間、二人にお風呂に入ってもらった。お風呂から上がると、小黒はすぐに布団に倒れてしまった。お腹が満たされて、幸せいっぱいな寝顔だ。
 そっと寝室の戸を閉めて、无限大人と飲みなおした。
「でも、今日はどうして突然こんなことを?」
「えっと、いつも无限大人にはしてもらってばかりなので、私から何かできれば……と思ったんですけど、思いついたのがこれくらいだったので」
「十分だよ。私だって、君には世話になっている」
「それだけじゃなくて、无限大人は執行人として、たくさんの妖精のために、いつも身を尽くしてくださっているから。それも、すごく長い間。それを労いたいと思ったんです」
「はは。そんな大げさなものじゃないよ。だが、そう思ってくれる気持ちはとても嬉しい。ありがとう」
「他にしてほしいかったらなんでも言ってくださいね! できることならなんでもします」
「してほしいことか」
 无限大人はお酒を飲んで、考える。しばらく視線を彷徨わせて、すとこちらを見た。
「膝枕……」
「え?」
「膝枕を、してほしい」
「ええっ」
 意外なことを言われて驚いてしまった。
「そんなことでいいんですか?」
「してくれる?」
「いいですけど……いいんですか?」
 无限大人がこちらにやってくるので、正座をして身構える。无限大人はさっそく身体を横にして、私の膝に頭を乗せた。下から見上げるようにされて、その瞳にどきりとする。なんだかへんなかんじだ。
「ど、どうですか?」
「うん。とてもいい」
 无限大人は目を閉じて、私の膝を堪能する。身体が緊張で硬くなってしまう。これで本当にいいんだろうか。もっと他にできることがある気がするんだけれど……。こういう場合、喋らないでそっとしておく方がいいんだろうか。膝枕って、なんだろう。なんだかわけがわからなくなってきて、そわそわする。
「きょ、今日の料理、どうでした?」
 話していないと落ち着かなくなって、話しかけてしまった。
「とても美味しかったよ」
「よかったです。小黒に无限大人がよく食べてるもの聞いて、一緒に作ったんです。小黒もたくさん手伝ってくれたんですよ」
「そうか」
「館で働いてると、やっぱり无限大人の話、よく聞くんです。たくさんの妖精が无限大人に助けられてるんだなって実感します」
「たいしたことはしていないさ」
「してますよ。中には、嫌な思いをしたことを、无限大人のせいにしている妖精もいますけど……。そういう妖精にも、いつかわかってもらえたらいいのに……」
「無理にわかってもらう必要はないよ。私は私のやるべきことをしているだけだから」
「でも……」
 无限大人の返答は揺るぎない。私が勝手に胸を痛めているだけで、无限大人は気にしていないのかもしれないけれど、でも、やっぱり、知らない振りはできなかった。
「人間への対抗心を持っている妖精には、普段の仕事ぶりで、信頼を築いていくしかないのかなと思います」
「君はよくやっているよ」
「もっと頑張ろうって思いました」
 无限大人は目を開き、手を伸ばしてくる。頬に触れて、促すので、身をかがめて、唇を重ねた。
「あまり思いつめないように」
「はい……」
 もやもやしていたことが无限大人にはお見通しなのかもしれない。
 もっと強くなりたい。无限大人のように揺らがず、自分のやるべきことを粛々とこなせるように。
「……すみません。そろそろ、足が痺れてきました」
「はは。すまない。長く楽しみすぎたな」
 无限大人は身体を起こすと、私の頭をぽんぽんと撫でた。足を崩して、ほっと息を吐く。
「こういうのも、たまにはいいですね」
「またお願いしようかな」
「ふふ。いつでもどうぞ」
 今度は私もしてほしいかも。と思いながら眠くなるまでお酒を飲んだ。

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