60.注ぎ合う愛情

「やっぱり、家で飲む方が落ち着きますね」
 白酒を一口飲んで、ほっと息をつく。
「レストランで飲んだワインもすごく美味しかったですけど」
「そうだな」
 无限大人はつまみを食べながら頷く。小黒が寝た後は、晩酌をするのが習慣になってきていた。
「……あの、怒ってますか?」
「何を?」
 不思議そうな顔をする无限大人に、少し迷いながら口を開く。雨桐の言っていたことが違っていたなら、それでいいんだけど。
「いえ、この前朝陽さんと話していた時、少し表情が険しかったので……」
「ああ」
 无限大人は片手で口元を覆って、横を向いた。
「それは……。すまない。怒っていたわけではないよ」
「そうですか? でも」
「ただ、君が他の人とお茶を飲みに行く、というのはあまり気分のいいものではなかったから」
「あ……」
 じゃあやっぱり、雨桐の言った通りだったのかな。
「すみません。軽率でした」
「君は悪くないよ。私が気持ちを制御できていないんだ」
 无限大人はそう言って苦笑する。
「君がもし私から離れたらと思ったら、耐えられない」
「そんな……そんなことありえません!」
 思わず声を大きくして否定する。
「あの人は友人です。それ以上ではありません。他の人だってそうです。一番は……无限大人ですから……」
 話しながら、无限大人の隣に移動する。そして、手を握った。
「信じてください」
「……うん。もちろん。信じているよ」
 じっと見つめたら、唇が重ねられた。こんなに穏やかで思慮深い人が、自分の気持ちを制御できないなんて、信じられない。それも、私のために。
「君は魅力的だから、好かれることはよくわかるけれどね」
 そう言って、私の頬を撫でる。
「そんなことないです……。ごく普通の平凡な人間ですから」
「私にとっては、特別だよ」
「……うれしい、です」
 私のどこをそんなに気に入ってくれているのか、正直なところはっきりとはわからないけれど、とにかく愛してくれていることはとても伝わってくるから、否定ができない。
「でも、私のどこが……」
「相手の気持ちをしっかりと受け止めて、応えようとするところ」
「それは」
「誰でもできることではないよ」
 そうなんだろうか。私よりずっと立派な人はたくさんいる。その中から、彼が私を見出してくれたことが奇跡で、とても恵まれていると思う。
「それから、私のことをとても愛してくれているところ」
「う……」
 いつも見つめてしまっていることがバレていると思うと、恥ずかしくなる。でも、止めることができない。
「君の瞳は私をすべて包んでくれる。とても心地がいい。もう、それなしの生活は考えられないほどに」
「大人……」
 それは私の方だ。无限大人の愛がこちらに向けられて、絶えず与えられることになるなんて、本当に夢みたいなことだ。それが失われるときは、目が醒めるとき。その幸せを胸に抱いて私は生き続けるだろう。
「どうしてそんなに私を愛してくれるんだろう。他にももっといい人はいたろうに」
「そんな……无限大人以上の人なんて、いません」
 无限大人は笑みを深くして、私の腰に腕を緩く回す。
「ありがとう。私を愛してくれて」
「ありがとうございます。私を選んでくれて……」
 もう一度キスをしたら、涙が一筋零れた。身体から力を抜いて、无限大人の胸に頬を押し付ける。
「少し、酔っちゃいました」
「飲ませすぎてしまったかな」
 たっぷり注がれる深い愛情に、溺れてしまいそうだ。心地よいほろ酔い気分のまま、そっと目を閉じた。

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