59.嫉妬?

「最後が気になりすぎて、次回が楽しみすぎるんですよね」
 朝陽さんの言葉に大きく頷く。
「本当に。あの二人、どうなっちゃうんでしょう」
「できればうまくいってほしいですけどね……!」
 今話題のドラマ番組を、朝陽さんも見ていたそうで、つい話が盛り上がってしまった。
「でも、ちょっと彼には感情移入しちゃうんですよね」
 朝陽さんは照れくさそうに、耳の裏をかきながらそう告げる。
「ずっと好きだった人に、アピールしていたのに、後から現れた男性に彼女が惚れてしまって……。それでも忘れられなくて。そういう気持ち、すごくよくわかるんです」
「切ないですよね。二人は仲のいい友達だから、余計に」
 好きだという想いがどうしても止められない気持ちはよくわかる。
「しかもその男性は頭がよくて、スポーツもできて、性格もよくて、非の打ち所がない。そりゃ惚れちゃうよね、っていうのが、やりきれなくて。ああ、どうしようもないよなぁって」
「うんうん。でも、彼にはもう大切な人がいますからね……」
「そうそう。だから彼女の思いは叶わなくて……。実際も、そうだったらよかったのにな……」
「え?」
「あっ、いや。その。だから、彼女には早く彼の気持ちに気付いてほしいなって思いますよね!」
「ほんとに」
 切ない三角関係に胸がいっぱいになる物語だ。もうストーリーは終盤に差し掛かっている。オリジナルドラマだから、誰も結末を知らない。たくさんの人が、彼らの行く末を見守っている。
「彼は、ずっと彼女のこと、一途に思ってるんですもの。その思いが伝わって、彼女が振り返ってくれたら、すごく素敵だと思います」
「そう……思いますか?」
「はい」 
 朝陽さんは少し真剣な顔をして、じっと私の顔を見つめてくる。
「あの……小香」
「はい」
「よかったら、今度お茶でもしながらドラマの話を……」
「小香」
 入口から声が掛けられて、顔を上げる。聞き間違えるはずもない、无限大人の声だった。无限大人は朝陽さんの方を見ている。朝陽さんはぱっと椅子から立ち上がった。
「无限大人」
「す、すみません! 長話しちゃいました。じゃあ、小香。僕はもう行きますね」
「あ、はい。また何かあったらいらしてください」
 朝陽さんは无限大人の横を通って、帰っていった。无限大人はその背中を見送ってから、眉をひそめてこちらに来る。
「今、彼は君をお茶に誘っていたか?」
「え? あ、ドラマの話をしようって……。今流行ってるドラマがあるんですけど、すっごく面白いんですよ」
「前も君を自室に誘っていたな」
「前? ああ、そういえばそんなこともあったような……」
 无限大人は渋い顔をしている。
「无限大人、なにか……ありました?」
「……いや」
 問題でも起きたのだろうかと不安になって訊ねたけれど、无限大人は首を振った。それから仕事の話をして、无限大人は帰っていった。短い時間だったけれど、話せてよかった。
「それ、嫉妬してるじゃん」
 さっきの出来事をちらりと雨桐に話したら、そう言われて目を丸くした。
「嫉妬? 何に?」
「朝陽さんがあんたに粉かけてると思ってるんだよ」
「え!? でも、朝陽さんは友達だし……」
「どうかな。まあ、恋人をお茶に誘う男見たらいい気はしないでしょ」
 あの无限大人が嫉妬だなんて、想像ができなくて素直に頷けない。あんなに眉を寄せていたのは、私が他の男の人に誘われていたから……?
「独占欲強いんじゃない、意外と」
 雨桐がにやりとしてそんなことをいうので、まさかと首を振る。まさか、あの无限大人に限って、そんな。
「とかいって、嬉しいんじゃないの」
「うっ……れしくないことは、ない、けど」
 雨桐につつかれて、思わず頬が緩んでしまった。

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