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「すまないが、小黒を待たせているから帰るよ」 「はい。すみません、来てもらって」 肩を竦める私に、无限大人は微笑んで見せた。 「私が会いたかったんだ」 たった一言で、私は天にも昇る気持ちになる。その笑顔は反則です。 「私も……会えてうれしかったです……」 そう答えるので精いっぱいだった。どんなにあなたの態度が私を喜ばせているか、それを知ってほしい。そして少しでも返せればいいと思う。 「次の休みがわかったら連絡するよ。そのときにゆっくりお祝いしよう」 「はい。待ってます」 お茶を飲み終わって、无限大人は慌ただしく帰っていった。ドアの鍵を閉めて、ソファに一人座り、また左手の薬指に嵌っている指輪を見つめる。蛍光灯の光を反射して、きらりと輝いている。 「……きれい」 笑みが溢れてきて、クッションを抱えて横向きに倒れ込んだ。ソファのスプリングが軋んで、少し身体が跳ねる。それもおかしくて笑ってしまった。少し前まで、いろいろ考えて落ち込んでいたのに、うそみたいに晴れてしまった。无限大人は、きっとずっと先のことまで考えて、その上で私に想いを告げてくれたんだ。それがわかって、胸がいっぱいになる。私が悩んでいることも、无限大人も考えてくれているかもしれない。だから今度、ゆっくり時間が取れるときに話そう。そう決めて、寝る仕度をした。 翌日職場に行って、雨桐にすぐさま手元を見られ気付かれた。 「へえ〜、いいプレゼントもらったじゃん」 にやーっとして言われるので、照れながらも嬉しくなる。 「えへへ。そうなの。すごく綺麗でしょ」 「うんうん。なんか、无限大人ってかんじする」 「うん……。ずっと傍にいてくれてる気がするの」 「はー、夢中だねえ」 「あはは。ごめん。でも、そうみたい……」 「いーよいーよ、どんどん惚気なさいよ」 「ふふふふふ」 どうしても笑顔が止まらなくて、雨桐に呆れられながらも嬉しい気持ちが膨らんでいく。指輪が指を締め付ける適度な力加減が、まるで手を握ってもらっているように感じられて、本当にいつもそばにいてくれているような、守られているような気持ちになった。 「でももう指輪贈るなんて、気が早いというか、もうその気ってことかね」 「え?」 なんの話かと首を傾げると、だから、と雨桐は呆れ気味に言った。 「それ、プロポーズじゃん」 「…………。…………。…………え!?」 「長いのよタメが。え、じゃないでしょ。薬指にしてるのに」 「え!? でも、だって、誕生日プレゼントだし……」 「プロポーズされてないの?」 「さっ、さ、されてないよ!」 「えー、まじか」 心臓がばくばくと音を立て、いまにも破れるんじゃないかと恐くなるくらい血圧が上がる。だって、そんな、まだ、付き合ったばかりなのに!? 「まあ、学生じゃあるまいし、付き合うとなればその先を見据えて、ってことにはなるわよねえ」 「うう、でも、そんな……」 そんなことは、言われていない。指輪を嵌めてくれたけれど、それだけだ。だからこれは、ただの誕生日プレゼントのはず。 「早すぎない……?」 「いいんじゃない。双方にその気があれば」 「その気……」 だから、両想いになっただけでいっぱいいっぱいで、その先のことなんて考えられないんだってば、という訴えは声にならなかった。どうしよう。无限大人がその気だったら。嬉しすぎて死んでしまう。 きっと先のことも考えて気持ちを伝えてくれたって思ったけど……先って、そういうこと? でも、无限大人は400歳で、普通の人とは違うから……。どういうことになるんだろう。 この指輪は、何を意味しているの? 翡翠の石に問いかけたけれど、石はただ美しく光るばかりだった。 ← | → |