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「最近は无限と写真撮ってないの?」 お菓子をつまみながら、若水姐姐は訊ねて来た。 「そうですね。この前は釣りに行きましたけど、写真は撮りませんでした」 「そっかー。まあ、无限も最近忙しいしね」 遠出をしたのは茶葉博物館が最後だ。それ以降は、近くでショッピングをしたりで、あまり遊びに行くという感じではなかった。 「執行人は皆忙しいんですか?」 「そうだね。私もみんなも、結構ばたばたしてるかも」 「事件が増えてるとか?」 「んー。去年と比べると多いかも。ちょっとだけど」 「大変ですね」 「まあ、何か大きなことがあったわけじゃないからね。日常の範疇よ」 「そうですか……」 執行人の日常。それはどんなものだろう。小黒が目指している世界は、どんなものだろう。无限大人がいる世界は、どんなものだろう。少し気になって、いろいろと聞いてみたら、若水姐姐は気軽に応えてくれた。 「戦うことは多いんですか?」 「荒事が担当といえばそうだからね。前提かな」 「怪我をすることもあります?」 「そんなにはないわよ。私は強いからね!」 若水姐姐は頼もしい笑顔を向けてくれる。无限大人も、怪我をしたということは聞いたことがない。危険ではあるのだろうけれど、皆熟達している。 「小黒は、執行人になれるでしょうか」 「そうね。无限の弟子だもの。なれるよ」 「ほんとうですか? よかった」 少しの迷いもなく言い切ってもらえて、ほっとした。あれだけ渇望していたことだ、叶わないとなったらどれほど落ち込むことだろう。 「无限大人と一緒に戦う……か。少し羨ましいかも」 「あははは。あなたが言うの?」 「え?」 ぽろりと零したら、若水姐姐はお腹を抱えて笑い声をあげた。そんなにおかしいことを言っただろうか。 「そりゃ、私は力がないので戦えないですけど……」 「そうじゃないわよ。だって、そんなことをしなくたって、ううん、そうじゃないからこそ、あなたは无限の一番近くにいるんじゃない」 「えっ……」 「最近の无限、表情が柔らかくなったの。小黒を弟子に迎えたときからそうだけど、もっと落ち着いたような気がする」 「そうなんですか?」 若水姐姐の言葉ひとつひとつに胸が躍って、どきどきしてしまう。私がいることによって、无限大人に何かしらの影響を与えられているとしたら、それは、どれほどすごいことだろう。 「でも、无限大人はもともと落ち着いてる人だし……」 「そうなんだけど、なんていうのかなぁ。いままではすぐにどこへでも行ってしまうところがあったけど、今はひとところに留まって安定してるような……そういうことよ」 「ひとところに……」 私のそばに? そう考えるのは烏滸がましい気もするけれど、もしそうならとても嬉しくなってしまう。 「小黒も、小香がいてくれて館でふらふらしなくてよくなったから、それもいいことね」 「はい。小黒には、寂しい思いをしてほしくないです」 「でも、あんまりデートできてないんじゃない?」 「それは……まあ。でも、デートでなくても、一緒にいられれば十分ですから」 若水姐姐はちょっと前かがみになって、口元に手を当てて、私の方に近寄ってくるので、私も耳を傾けた。 「実は无限にね、最近聞かれたの。どういうことをロマンチックだと思うかって」 「あっ……」 この間の会話を思い出して、おかしくなってしまう。そんなに気にしていたなんて。 「私や、紫羅蘭や、他にもいろんな女子がアドバイスしておいたから」 ウインクされて、苦笑する。无限大人、何か考えてくれているのかな。いいとは言ったけれど、実際してくれるというのなら、楽しみになってしまうかも。 ← | → |