52.悩みの解決策

「そうか。小黒がそんなことを」
 无限大人に、小黒が悩んでいることを伝えると、じっと黙り、考え込んだ。
「もしかしたら、私の存在が小黒を焦らせてしまったのかと思って……。私が、その……夫婦になることを、気にしているみたいで」
「いつか、弟子でなくなってしまうかもしれないと案じているんだな」
「そうみたいです」
 无限大人は腕を組み、目を伏せる。
「これまでも、一人にしてしまうことは心配だった。君があの子の傍にいてくれるようになって、あの子も安心できるかと思ったのだが」
「すみません。力不足で」
「そんなことはないよ。君はとてもあの子のことを考えてくれている。とてもありがたいし、嬉しいと思っているよ」
 俯く私に、无限大人は優しく微笑んでくれる。
「そんな……。私は、无限大人とはもちろんですけど、小黒とだって、ずっと一緒に……家族みたいになれたらって、思ってますから」
 无限大人との縁で知り合った関係だ。でも、今は私と小黒の間で、それなりに関係が築いていけていると感じている。
「私にとっては、もう家族だよ」
 无限大人は私の手を取り、じっと見つめる。左手の指輪を意識して、頬が熱くなった。
「あの子も。あの子は私の元を選んでくれた。私はあの子を受け止め、共にいることを決めた。その気持ちは、ずっと変わらない」
「はい……」
 なんだか、目頭が熱くなってしまう。二人が出会えたこと、今、共にいることがとても奇跡的で、すごいことだと感じられる。小黒も、无限大人も、こんなにもお互いを大事に思っているんだ。
「できる限り一緒にいてやりたいと願っているが、なかなかそうもいかない。君にも寂しい思いをさせているのではと思う」
「私は……いいんです。わかってますから」
「ありがとう。それにしても、執行人か。頼もしいことだ」
 无限大人は嬉しそうに笑みを零す。弟子として育てている子が一緒に戦いたいと言ってくれるのだから、それは嬉しいだろう。いつか大きくなった小黒が、无限大人と肩を並べて任務に当たる姿を想像すると自然と笑みが浮かんでくる。
「でも、やっぱりまだ今は早いでしょう。小黒はこんなに小さいのに……戦うなんて」
「そうだな。能力は驚くほど伸びている。だが、経験はまだまだだ」
 无限大人は執行人の顔になって、冷静に分析する。でも、今の小黒は納得しないだろう。不安で焦っていて、追い立てられている。
「一度、試してみるのはいいかもしれない」
「何をするんですか?」
 つい不安が顔に出てしまって、无限大人は私を安心させるように笑みを向けた。
「考えていることがあるんだ。まだ固まってはいなかったが。あの子自身もその気があるなら、そろそろ実行へ向けて動いてもいいかもしれない」
「危ないことではないですよね?」
「もちろん、危険がないように策は講じるよ。だが、ある程度の覚悟はしてもらう必要がある。あの子には、もっと世界を知ってほしい」
 そう言う横顔は師父としての厳しさを見せていて、どきりとする。无限大人はとても優しいけれど、最強と言われるほどの執行人でもあるのだ。
「ただ、すぐにとはいかないな。まだ準備に時間がかかる。このことはまだ小黒には話さないでくれ」
「わかりました」
 まだ猶予があると知ってほっとする。けれど、どんなことを考えているんだろう。まさか、執行人になるための試験を受けさせるなんてことはないだろうけれど。今の小黒だったら、きっとどんなことでも挑もうとするだろう。
「今後も、あの子の話を聞いてあげて欲しい」
「もちろんです」
 手を握り合って、約束した。小黒の悩みに寄り添ってあげられるよう、努めよう。

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