49.消えない恨み

「こんにちは。ご用件はなんですか?」
 訪れた妖精を出迎えて声をかける。妖精は気難しい顔をして腕を組み、私を一瞥すると首を振った。
「あんたじゃ話にならん、他のものを出してくれ」
 きっぱり言われてしまって、取り付く島もなかった。
「かしこまりました。少々お待ちください」
 奥へ戻って、手の空いている人を探す。ちょうど雨桐がいたので小声で声をかけた。
「雨桐、対応お願いしてもいい?」
「いいけど、小香が対応すればいいんじゃないの?」
「私以外の人がいいみたい」
「何それ?」
 雨桐は眉を寄せて何かを言おうとするけれど、今はお待たせしているからまずは対応をしてもらうことにした。
「ごめん。今度仕事手伝うから」
「仕方ないな」
 雨桐は渋々表へ向かう。別の仕事をすることにしたけれど、しばらくはどうしてだろうと気になって手につかなかった。
 戻ってきた雨桐は、ちょっと怒った顔をしていた。
「雨桐、ありがとう」
「いいのよ。でも……あの人腹立つわ」
「何か言われたの?」
「あんたのことよ、小香」
 雨桐は椅子を軋ませて座り、お茶をぐいっと飲んだ。
「无限大人の恋人は信用できないってさ」
「え……」
 思ってもみなかった理由に、目を見開く。傷つくより前に、どうして、という疑問が浮かんだ。
「あの人、无限大人を恨んでるクチだよ。負けたから根に持ってるんだ。だからその恋人も許せないんだって。ガキかっての」
「そっか、仕方なく館にいるのね」
 そう言われると納得してしまった。妖精の中には、无限大人のことをよく思っていない人もいる。深緑さんのように、元々住んでいた所を追われてここに連れてこられて、窮屈な思いをしているから。
「話自体は、誰でも対応できる内容だったよ。それを、つまらない理由でわがまま言って、面倒かけるなって話よ」
「ごめんね、お願いしちゃって」
「私はあの人に怒ってるの。小香は何も悪くないよ」
 雨桐ははっきりとそう言ってくれるので、少しほっとする。
「无限大人のしていることは間違ってないと思ってる。それで辛い思いをする妖精がいることはわかっているけれど……。あの人にも、いつかわかってもらえるといいな」
「優しいわね、小香は」
 雨桐は呆れたように笑う。
「无限大人はちょっと強引なところあるからね。本人も恨まれても仕方ないと思ってる節があるからなぁ。それくらいじゃないと、執行人なんてできないのかもしれないけどね」
「雨桐、无限大人のこと詳しいね」
「お、嫉妬か?」
「違うよ」
 ニヤリとされて、肩を揺らして笑う。他の人から見た无限大人のことを聞くのはなんだか嬉しい。
「まあ、変に騒ぎになるのもよくないし、またあの人来たら私か別の人呼んでいいよ」
「うん。そうする」
 それにしても、无限大人の恋人となって、こんなことが起こるとは想像していなかった。无限大人への妖精たちの感情と言うのは、思っていたよりも根深いのかもしれない。无限大人本人も、特別変えていこうとはしていないみたいだ。
 私の行動は私個人だけでなく、无限大人の恋人として見られる。彼の印象を悪くすることがないよう、気をつけなければ。
 改めて気が引き締まる思いだった。

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