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そろそろ気温が上がってきたので、夏服を買いに行くことになった。大きな駅の近くにあるショッピングモールへ三人で向かう。无限大人と小黒と一緒に出かけることが、当然のようになってきた。小黒は私と无限大人と手を繋ぎ、足を高く上げて楽しげに歩いている。普通の家族とは違うけれど、私たちらしい形になればいいと思う。 「あの店はどう?」 无限大人は、入口を入ってすぐのところにあるレディースの店を示してみせた。 「少し見てもいいですか?」 二人に確認して、お店を覗く。キラキラしていて、私とは縁遠い系統のお店だ。こういう服が似合う女性になりたかったけれど、でも今の自分に満足している。自分には合わないだろうけれど、鮮やかで目を楽しませてくれるからつい見てしまう。 无限大人は、ワンピースを着たマネキンの前に佇んでいた。 「かわいいワンピースですね」 「君に似合いそうだ」 「えっ、私は合わないですよ」 「そんなことはないよ」 思っても見なかったことを言われてつい強めに否定してしまうけれど、无限大人はそうは思わないらしい。 「着てみてくれないか」 「うーん、試着だけなら……」 ちょっと可愛すぎると思うけれど、そう言われたら着てみようかと言う気になってくる。店員さんに声をかけると、奥から同じワンピースを持ってきて試着室に案内してくれた。ささっと着替えて、鏡を見てみるけれど、自分ではよくわからない。 「どうでしょう……」 そっとカーテンを開けて二人の前に姿を見せる。 「小香、かわいい!」 小黒は口を丸く開けてそう言ってくれた。无限大人はじっくりと私を眺めて、微笑む。 「思った以上だ」 「そうですか?」 恥ずかしくなってスカートの裾を引っ張ったり、揺らしたりしてみる。无限大人がそう言ってくれるなら、そうなのだろうか。 「これをもらおう」 「ありがとうございます。では」 无限大人は店員さんに伝えてお会計を進めてしまう。あわあわしているうちに全ては済んでしまった。 「いいんですか、買ってもらっちゃって」 「君に贈りたいと思ったから」 「ああ、ありがとうございます……」 无限大人は満足そうに言うから、断るのも申し訳なくて受け入れるしかなくなってしまう。とても嬉しいけれど、いいのかなとも思ってしまう。元の服に着替えて、改めてお礼を伝えると、少し残念そうな顔をされた。 「着替えなくても」 「ま、また今度着ます。ちゃんと靴も合わせないとだし……」 「そうか。似合う靴も探そう」 「えっ」 私はどちらかと言うと二人の服を探すのを楽しみにしていたのだけれど、无限大人は自分ではなく私の服を見繕うのを楽しんでいるみたいだ。人に選んでもらうと、普段着ないタイプの服を薦められるから嬉しいけれど、なんだか恥ずかしくもある。无限大人はこういう服が好きなんだということが知れるのはいいかもしれない。 「師父、服買うの好きみたい。ぼくにもいっぱい買ってくれたよ」 「ふふ、そうなんだ」 小黒の服をあれこれ選ぶ姿を想像すると可愛く思えて、つい笑みが溢れてしまった。无限大人は、小黒に甘いところがあると思う。 「小香、靴屋があったよ」 小黒と話していたら、少し先に行っていた无限大人が振り返って私たちを呼ぶ。私と小黒は顔を見合わせて笑ってから、无限大人を追いかけた。 ← | → |