46.修行二、肉を焼く

 今日も无限大人と料理の練習をすることになった。今回はお肉を焼くだけのシンプルな練習を考えている。まずは火加減を覚えてもらって、味付けなどはまた後で、順番に行っていこう。
「薄いお肉と、ちょっと厚めのお肉を用意しました」
 買ってきたお肉のパッケージを並べる。
「最初は薄い方から焼いてみましょう」
「わかった」
 无限大人に火をつけてもらって、ちょうどいい火力に調節してもらう。
「これくらいだろうか」
「もう少し弱めで」
「これくらいか?」
「それくらいです。それで、フライパンを温めます」
 油を敷いて、パチパチと音が鳴るまで待つ。
「では、一枚ずつ重ならないように、お肉を並べてください」
 无限大人は綺麗にお箸でお肉を並べる。
「いいですね。これで、色が変わるまでそのまま焼きます」
 无限大人は色の変化を見逃すまいと、じっとフライパンを見つめている。その顔は真剣そのものだ。
「縁の色が変わってきてるのわかりますか? そろそろひっくり返しましょう」
「うん」
 无限大人はサッとお肉をひっくり返していく。その手つきは鮮やかだ。
「いい感じです! また半分火が通るまで待ちます」
「何分くらいだろうか」
「そうですね……お肉一枚一枚で火の通り方は違いますから、見極めるのが大事です」
「それは難しいな」
「慣れですよ。たくさん焼けば覚えます」
「そういうものか」
「あ、そろそろよさそうですよ」
 いい匂いがしてきたので、无限大人にお皿を渡して、移してもらった。
「わあ、綺麗に焼けましたね!」
「いい焼き加減に見えるな」
 无限大人はさっそくお箸を持って、一枚を食べてみる。ちゃんと火は通っているはずだ。
「……焼けている」
 无限大人は目を丸くし、感激したように呟いた。
「あはは。焼けましたね。じゃあ私も……」
 无限大人は少し不安そうな顔で私を見る。見守られながら、お肉を一枚取り、味見した。
「……うん! ばっちりです!」
 ちょうどいい焼き加減だ。私の表情を見て、无限大人はほっと眉を下げた。
「ありがとう、君のおかげだ」
「この感覚を忘れないうちに、次のお肉焼きましょう」
 その日用意していたお肉を全て焼いて、その日の練習は終わりになった。私は味見だけで、他は全部无限大人が食べてくれた。多くないかと思ったけれど、无限大人は平気そうだ。
「この感覚を体に覚えこませるために、毎日焼くよ」
「火加減気をつけてくださいね」
「ああ。日々の積み重ねが大事なのは、修行と同じだな」
「そうかもしれませんね」
 やる気に満ちている无限大人の姿はなんだか微笑ましい。无限大人が真剣な分、教えるのも楽しくなった。努力できる人だから、これほどの実力を身につけられたんだろう。
「お肉が焼けるようになったら、次はお魚焼いてみますか?」
「食材によって違う焼き方を覚えていかなければならないんだな」
「頑張りましょうね」
 无限大人はじっと私の顔を見て、微笑む。
「小黒には無理じゃないかと言われてしまったが、君とならできるようになれる気がするよ」
「无限大人が諦めずに挑戦するからですよ。でも、お役に立てたらすごく嬉しいです」
 私にできることなんてこれくらいだ。だから、私も真剣に向き合いたい。
「美味しいご飯、小黒に食べてもらいましょうね」
「うん。頑張るよ」
 素直に頷く笑顔が、かわいい、なんて思ってしまった。

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