![]() |
「今日、会えなくなったんだって?」 「うん……」 仕事の終わり際、雨桐が声を掛けてきた。本当なら、これから无限大人と過ごすはずだった。でも、任務が長引いてしまって、まだ帰れないと電話があった。 「忙しい人だもんね。これからも、きっとこういうことあるだろうね」 「うん。それはいいの。わかってるから」 无限大人がどれくらい忙しいかはこの一年でよくわかっていた。それでも、時間を作って私と過ごしてくれていた。 「じゃー、今日は私とご飯食べよっか!」 「わっ」 雨桐は私の首に腕を掛けて、帰ろう帰ろうと引っ張った。理解はしているけれど、やっぱり寂しいという思いは消せずにいたので、こうして気を使ってもらえるのは嬉しかった。駅近くのレストランに行き、奢ってもらうことになった。 「はい、プレゼント」 「わあ、おっきい」 雨桐が鞄から取り出した箱のサイズに驚いた。重量もずしりとしている。 「帰ってから開けてくれたらいいけど、アルバムにしたの。よく写真撮ってるっていってたから」 「アルバム! 嬉しい……!」 「これからもいっぱい撮るんでしょ」 そう言ってにやにや笑うので、少し恥ずかしくなる。无限大人が私の恋人になってくれたなんて、やっぱりまだ実感が湧かない。 「うん、いっぱい撮りたいな」 去年作った、一度は見れなくなったアルバム。続きを作れるなんて、あのときは思ってもみなかった。これから、たくさん作っていけたらいいな。 「幸せいっぱいで羨ましいね」 「雨桐も彼氏とうまくいってるでしょ」 「まあね」 にやりと笑って、雨桐はお酒を飲む。今日のお酒は飲みやすくて、気を付けないとたくさん飲んでしまいそう。 雑談をするうちに、昨日の悩みがまた浮かんできて胸がもやもやし始めた。酔いと混じって、あまりいいものではない。 「ねえ、雨桐」 「ん?」 「妖精と人間が恋人になったことってあるのかな」 「さあ……」 私は聞いたことないな、と答えが返ってきて、やっぱりそうかと思う。私も、館で働いているけれど、ほとんど聞いたことがなかった。両親に聞けば、もしかしたらそのケースがあるかもしれないけれど、きっと少ないだろう。 「急にどうしたの?」 「うん……。私と无限大人って、寿命が違うでしょ」 「ああ……」 「だからね、気になっちゃって……。いままでも、子供のころからの知り合いの妖精が、私が大人になっても姿が変わっていないってことがあったから、理解はしているつもりなんだけど」 実際に、无限大人とそういう状況に直面したら、私はどう感じるだろうか。想像がつかない。ちゃんと受け入れられるのか、それとも。 「確かに、そういう問題はあるよね」 「少し、不安になっちゃった」 コップの縁を指でなぞりながら、正直な思いを零す。 「それはもう、无限大人と話しておくしかないんじゃないかな」 「そうだね……」 「これから、二人で向き合っていくことになる問題だろうから。一人で抱え込まないように」 「はい」 まだ、自分の中でも芽生えたばかりで、何がどう不安で、どうしたいかがはっきりしないから、漠然とした気持ちだけ伝えるのもどうかと思う。もう少し、自分の中で整理がついたら話してみようかな。 悩むのはいったんやめて、美味しいお酒とご飯でお腹をいっぱいにし、気持ちよく店を出た。 「今日はありがとう、雨桐」 「いえいえ。じゃあね」 雨桐と別れて家に向かう。酔った私を心配して、送ってくれたときのことを思い出した。寂しいな。早く、会いたいな。 ← | → |