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職場に明俊さんが訪ねて来たので、相談が終わったあと、上海タワーに行った話をすると、とても興奮した様子で詳しく話を聞かせてほしいと頼まれた。端末で撮った写真を見せながら、実際に行って感じたことを伝えた。 「本当に高くて、怖いくらいでした。あんなに大きいものがびくともせず立っているなんて、信じられないです」 「そうでしょう。ちゃんと風なんかも計算して、揺れないようにしっかりと作ってあるんです。すごいものですよね」 「あと、上まで昇るエレベーターがすごかったです。すごいスピードなのに、ぜんぜん揺れなくて、びっくりしました」 「へええ。エレベーター、私は乗ったことがないんですよ。館にもエレベーターを作ってくれたらいいと思うのですが」 「あはは。あれば便利ですね」 「そうでしょう。みなさんにとっても易になることだと思うのです。ひとつ、館長にお願いしてくださいませんか」 「今度機会があったら伝えておきますね」 ぜひ、と明俊さんは本気の様子で頼むので、私もちゃんと伝えよう、と受け止めた。実際、妖精も電気やインターネットなど便利なものはどんどん取り入れていっている。要望はきっとあるだろう。ただ、ここは外界から閉ざされているので施工が難しいかもしれない。 「最近は、建築についての勉強をしてるんですよ。自分で設計図を引いてみたいじゃないですか」 「わあ、すごいですね」 「人になれたら、そういう仕事につきたいですからね。今から、知識を蓄えておかないと」 「そうですね」 嬉しそうに語る明俊さんに、切なくなる。无限大人が言っていたことを思い出してしまった。明俊さんには、変化の才能がない。いくら修行をしても、無駄かもしれない……。でも、明俊さんはそうは思っていない。いつかはやってみせると、希望に胸を膨らませている。 「頑張ってください。応援しています」 「ふふふ。ありがとうございます」 明俊さんは照れたように頭を撫でた。 「とはいいましても、まだまだうまくいっておりませんでしてね……。師匠には厳しく指導してもらっているんですが、やはり難しいものですね」 「そういうものなんですね。建築のお勉強と、どっちが大変ですか?」 「それは難しい質問ですね。どちらもそれぞれに難しいですよ。でも、どちらも頑張りたいと思います」 「やる気いっぱいですね」 「はい」 明俊さんは照れつつも、表情を輝かせて、帰っていった。難しくても、自分の夢を諦めず挑戦する姿はとても眩しい。見習いたいと思った。もし私が妖精だったら、どんなだったろうとふと思った。人間のことを、どう考えただろうか。明俊さんみたいに、好きだと思えただろうか。どんな能力が使えただろう。无限大人みたいに、金属や水を操れたら楽しそうだ。 もし、妖精だったら。 无限大人と、出会えていただろうか。 もし出会えていて、こんなふうに、想いが通じ合ったとしたら。そうしたら、ずっと長く、一緒にいられていただろうか。 考えても詮無いことだけれど。ふと思いついたら、しばらく頭から離れなくなってしまった。人間として生まれたことに不満はない。寿命があることもそういうものだと受け入れている。でも。 やっぱり、離れてしまうことは寂しい。 もし、修行して、寿命を延ばすことができるとしたら。 私は迷うだろう。 なんて、才能がないのだから悩むことすらできないけれど。 ずっと一緒にいたい、なんて、欲深だろうか。 それは望みすぎだろうか。 指に嵌められた緑の石を見つめる。この石のように、ずっと変わらずいられたらいいのに。 ← | → |