26.ひとりの寂しさ

 明日は无限大人が任務に出かけるので、小黒を預かるついでに夕飯を食べてもらうことにした。炒青菜と東坡肉を作ってテーブルに並べると、小黒が待ちきれないように椅子の上に立ち上がった。
「いい匂い!」
「小黒、座りなさい」
 无限大人の声も聞こえないようで、箸を手にしてはしゃいでいる。
「はいはい、座ってから食べてね、小黒」
「わーい!」
 小黒はぴょんと椅子に座りなおし、さっそく食べ始めた。
「この味、好きだな」
 无限大人は東坡肉をひとつ口に入れて、味わうように噛みながらそう言ってくれた。
「よかったです。味付け、けっこううまくいったかなと思います」
「美味しいよ」
「美味しい!」
 二人にお墨付きをもらえて、ほっとしながら自分でも食べてみる。肉は柔らかくて、味もしっかりついていた。レストランでの食事もいいけれど、こうして自宅でテーブルを囲むのもとても楽しい。そんなに凝った料理は出せないけれど、ちゃんと丁寧に作れば、二人とも喜んでくれる。
「ねえ、この前は二人でどこ行ってたの?」
 一足先に食べ終わった小黒が訊ねてきた。
「上海タワーだよ。大陸で一番大きいそうだ。外灘に行った時に見ただろう」
「ほんと? どれ?」
「これだよ」
 小黒に端末の写真を見せると、小黒はこれかあ、と捻じれたタワーを見た。
「いいな。ぼくも行きたかった」
 その声はすごく残念そうで、寂しそうだった。三人で出かけることが多かったから、今回小黒だけ行けなくてのけ者にされたような気持ちになってしまったかもしれない。私は慌ててフォローする。
「また今度行こうね。展望台からの景色、すごく綺麗だったよ」
「……うん」
「その前に、動物園に行くんだろう? パンダを見に」
「パンダ!」
 无限大人がそう声を掛けると、途端に小黒の表情が輝いた。やっぱり无限大人の言葉の方が、小黒に響くのかもしれない。私はまだ一年程度の付き合いだから、そこまでの関係になれていない。
「またお弁当作ってね、小香」
 反省していると、小黒がにこりと笑ってそう言ってくれた。私も明るく笑い返す。
「一緒におにぎり作ろうね」
「うん! ねえ、おにぎりにからあげ入れてもいい? そうしたらごはんとからあげ、一緒に食べられるでしょ」
「なるほど。頭いいね、小黒」
「へへん」
 小黒は自慢げに胸を張ってみせる。
 二人きりで出かけたい気持ちももちろんあるけれど、小黒と三人で出かけるのもとても楽しい。小黒が悲しくならないように、もっと気を配ろうと思った。
「では、そろそろ行くよ」
「はい」
「いってらっしゃい、師父!」
 无限大人が立ち上がるので、玄関まで見送った。また数日は戻ってこないそうだ。玄関のドアを閉めて、私は隣にいる小黒と目を合わせる。
「じゃあ小黒、お風呂入ろうか」
「えー」
「私、小黒と一緒にお風呂入りたいな」
「うーん……じゃあしょうがないな……」
 精いっぱいアピールすると、小黒はしぶしぶといった様子でお風呂場に向かってくれた。
 お風呂に入って、小黒と一緒に湯船に浸かっていると、小黒が私の手をじっと見ていた。
「指輪、外してるの?」
「お風呂入るときとか、汚しちゃいそうなときはね」
「そっか。でもいつもつけてるよね」
「そうだよ」
「ふうん……」
 小黒は口をお湯に浸けて、ぶくぶくと泡を立てた。

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