24.デートの約束

 无限大人と付き合うようになってから、まだちゃんとしたデートはしていないかも、とふと思った。一緒に食事はしたけれど、普段でかけるときは小黒も一緒だったから、二人きりで改まって出かけることはまだしていない。それに気付くと、してみたくなってしまった。まだ二人きりでいるのは慣れなくて緊張してしまうけれど、きっと付き合う前とは違う気持ちになるだろうと思う。
 どうしよう。連絡してみようか。
 迷いながら端末を取り出し、画面を見る。登録された无限大人の名前を見つめていると、声が聞きたい気持ちが湧き上がってきた。
 どきどきしながら発信ボタンを押す。しばらくして、无限大人が通話口に出た。
『小香? どうした』
 私の名前を呼んでくれる声がとても優しくて、胸がきゅっとなる。
「お忙しいところすみません。今、いいですか?」
『ああ』
「あの、もしよかったら今度、一緒にお出かけしませんか。……二人で」
『今度は……ああ、すまない。次の休みは小黒と約束をしていて』
「あっ……そうなんですね」
 残念だったけれど、声にその気持ちが滲まないように強いて明るい声で答えた。
『その次はあけておくよ。二人で一緒にでかけよう』
「……はい!」
 まだ日取りはわからないけれど、約束できただけで胸がいっぱいになって、通話を切った。二人でどこに出かけよう。无限大人のお休みの日がわかるまで、どこに行こうか決めないと。二人で出かけるのだから、繁華街がいいかもしれない。お買い物をして、美味しいものを食べたい。手を繋いで、恋人同士の時間を満喫したい。
 その日の午後は、明俊さんが訪ねて来た。
 相談を受けて対応が終わって、お茶を飲みながら雑談をする。
「今度できるビルがとても高いそうで、私もいつか行ってみたいんです」
「明俊さん、最新情報に詳しいんですね」
「私、こういうの好きなんですよ」
 そう言いながら、明俊さんは水かきのついた手で端末を操作し、画面を見せてくれる。そこには、近未来的なデザインのビルが映っていた。
「人間は空を飛べないけれど、こんなに高い建物を作って、山よりも高い位置から地球を眺めることができるんです。いいですよね。浪漫ですよ」
「なるほど。明俊さんは、人間になれたらどんなところに行きたいですか?」
「上海タワーですね! 大陸で一番高いビルなんですよ」
 質問をすると、明俊さんは嬉々としてビルについて詳しい話をしてくれた。専門用語が多くて半分くらいは内容が理解できなかったけれど、明俊さんの知識の深さはよくわかった。
「このビルの最上階から眺める景色は、どんなものだろうなあ。はあ、いつか必ずこの目で見たいです……」
 明俊さんは遠くを見る目をしてうっとりと溜息を吐く。
「あ、上海タワーって外灘から見えるんですね。それなら、見たことあるな」
「本当ですか!」
 无限大人と小黒と行ったことを思い出して、呟くと、明俊さんは身を乗り出してきた。
「どうでした!? 大きかったでしょう! さぞ美しかっただろうなあ!」
「はい。夜景を見に行ったんですけど、他にも何本も高層ビルが並んでいて、綺麗でした」
 確か、くしゃみをしたら无限大人が上着を貸してくれた。今度は昼間に、上海ビルの方に行ってみるのもいいかもしれない。
「上海タワーには展望台もありますよ。ぜひ中に入ってみてください」
「楽しそうですね。今度行ってみようかな」
「行ったら、写真を見せてくださいね」
 明俊さんのおかげで、无限大人と行きたい場所が決まった。お礼を言って、館に帰る明俊さんを見送る。明俊さんは軽い足取りで帰っていった。人間に変化する修行は順調なんだろうか。早く、人間になれるといいのに。そう思いながら、空になった茶杯を片付けた。

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