23.幸せな未来

 次の休みは、无限大人と小黒と三人で公園に遊びに行った。小黒は无限大人とバトミントンができてとても嬉しそうだ。
「いくよ、師父!」
 小黒が構えると、无限大人はラケットをくるりと回して迎え撃つ。私とやっていたときよりも、小黒の打ち方は容赦ない。しかし、どんな風に打っても无限大人はしっかりと打ち返している。ラリーはどんどん続いて、小黒がちょっとむきになってきた。无限大人から一本取ろうと頑張る小黒に、无限大人は手加減しない。でも小黒が打てるように打ち返していると思う。
 周辺には家族連れが多かった。ベビーカーを押している夫婦や、小さな子が歩き回るのを追いかけるお父さんがいて、私たちも、そんな家族のひとつに見えているのだろうか、と考える。
 恋人は結婚して夫婦になり、子供を作って親になる。
 私もそうなれるだろうか。左の薬指に嵌った指輪を見つめる。想いが繋がっている証。子供を作ることも、できるだろうか。
 无限大人との赤ちゃんを抱く自分を想像して、不思議な気持ちになる。自分が親になるなんて、あまり考えたことがなかった。でも、そうなりたい、という気持ちの方が強い。无限大人と私の血が混じり、生まれた子。どんな子になるだろう。女の子は父親に、男の子は母親に似るっていうけれど。无限大人のように強い子になれるだろうか。
「小香、喉乾いた!」
 ぼんやり考えていたら、小黒に声を掛けられて、はっとして慌てて水筒を取り出した。
「はい、どうぞ」
「へへ。次は小香もやろ!」
 小黒に手を引っ張られて立ち上がると、无限大人にラケットを渡された。无限大人と交代して、小黒と向かい合う。
「じゃあ、行くよ!」
「よし、来い!」
 頭上やや斜め右に飛んできたシャトルをなんとか打ち返す。无限大人ほどうまく打ち返せないけれど、小黒はちゃんと打ってくれた。
 たくさん遊んで、お弁当を食べると、小黒はお昼寝を始めてしまった。私と无限大人はお茶を飲みながらのんびりする。
 私は、さっき考えていたことを話してみようか迷っていた。无限大人はどう思うだろう。困らせてしまうだろうか。私たちには小黒がいるから、それで十分なのかもしれない。でも。
「何か考えてる?」
 そわそわしているのを気付かれてしまった。无限大人に優しい声を掛けられると、誤魔化したり話を逸らしたりができなくなる。
「その……。もし、できるなら、私たちの子が……ほしいなって、考えてました」
 なので、正直に打ち明けた。无限大人は目を細める。
「何人?」
 前向きな答えに、涙がじわりと浮かんだ。いろんな想いが湧き上がってきて、胸がいっぱいになる。目尻を拭って、笑みに変えた。
「そうですね。二人……かな。女の子と、男の子」
「いいな」
 无限大人はシートに置いた私の手に手を重ねる。
「いますぐには難しいが、いずれは」
「はい」
 じっと目を見つめられるので、見つめ返す。キスをしたいけれど、外なので我慢する。无限大人は微笑みを深めて、私の頬に触れた。少しくすぐったくて、肩を竦めて笑う。
 ごそごそと音がして、目をこすりながら小黒が起き上がってきた。
「んん……」
「おはよう、小黒。よく眠れた?」
「ふぁ……。おはよう……」
 小黒は大きく伸びをして、眠気を覚ました。
「師父、サッカーやろう」
 そして、さっそく无限大人の手を引っ張って、シートを下りようとする。
「小黒、待って、靴履いてから」
 小黒の足元に靴を持って行ってやると、无限大人が小黒に靴を履かせた。靴を履いた途端待ちきれないように地面に足を下ろし、ボールを持って走り出す。无限大人は行ってくる、というようにこちらを見てから、小黒を追いかけて行った。二人の姿を見ながら、さっきの会話を心の中で繰り返す。幸せな未来を思い描いて、頬が緩んで仕方がなかった。

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