22.もう少しだけ

 うちで元宵団子を食べて、少し休んでいるうちに、小黒が眠ってしまった。布団を寝室に敷いて寝かせる。
「今日も泊っていきますか」
「お言葉に甘えようかな」
 无限大人がそう答える。しばらく離れていたから、すぐに帰ってしまうのは寂しかった。先にお風呂に入って、身体を綺麗にする。リビングに无限大人がいると思うと、それだけで意識してしまってどきどきしてしまう。パジャマに着替えて、リビングでゆったりしていた无限大人に声をかけた。
「お待たせしました。お風呂どうぞ」
「ありがとう」
 パジャマ姿を見せるのはまだ少し恥ずかしい。春節の間に一緒に過ごしたけれど、まだまだ慣れない。リビングでソファに座っていると、かすかにシャワーの音が聞こえる。无限大人がお風呂に入っている、と思うと変な方向に想像が向かってしまいそうだった。気を紛らわせるためにテレビをつける。全然内容は頭に入ってこないけれど、少しはましだった。
 无限大人はすぐにお風呂から出てきた。気楽なシャツとズボン姿になっていて、普段の雰囲気と少し違う。水を操れるから、髪の水分はすぐに乾くらしい。すごく便利で羨ましかった。それでこんなに綺麗な髪なんだろうか。ソファの隣に座った彼から、私のシャンプーの匂いが微かにする。私のシャンプーを使っているから当たり前なのだけれど、なんだか妙な心地になった。
「小黒はどうしていた?」
「元気でしたよ。やっぱり、お風呂は苦手みたいで」
「苦労をかけてすまないな」
「いえいえ。他はとてもいい子ですから。全然手がかかりませんよ」
 小黒はまだ幼いけれど、どこか大人びている。かしこくて理解が早い。やっぱり、一人で生きていた時期があったから、その分早熟なんだろう。でも、そんな小黒も、无限大人の前では年相応の子供になる。私も、小黒にそんな風に過ごしてもらえるようになりたい。无限大人ほどの頼もしさは難しいかもしれないけれど、一緒に過ごすのを楽しいと思ってくれていれば嬉しい。
 翌日もお互い仕事なので、あまり夜更かしはせず早めに寝ることになった。
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
 離れがたさを感じながら、寝室に入る。小黒はぐっすり眠っていた。ベッドに入ったけれど、なんだか寝付けない。まだ、何か足りない気がする。せっかく无限大人がいるから、もっとずっと一緒にいたい。でも、疲れてるのに邪魔はできない。だからこうして早めに寝るのがいいんだろうけれど。そう自分に言い聞かせてみるけれど、やっぱりだめだ。そっとベッドから抜け出して、電気の消えたリビングに向かう。音を立てないようにしてソファに向かうと、无限大人は静かに目を閉じていた。もう寝てしまったんだろうか。
 カーテン越しの薄い月明りの中、眠る无限大人の顔を見つめる。寝顔、初めて見たかもしれない。朝は私が起きるより先に起きているから。寝るときも姿勢がいい。呼吸も落ち着いていて、なんだか无限大人らしい寝相だ。
「……大人」
 起きてくれないか、でも寝るのを邪魔したくない、そう葛藤しながら、小さく呼びかける。するとすっと无限大人の瞼が開いた。
「眠れない?」
「すみません。起こしちゃって」
「いいよ」
 无限大人は身を起こすと、こちらに手を伸ばしてきた。私は引かれるままソファに座り、无限大人の腕の中に納まる。
「もう少しだけ、一緒にいたいです」
「うん」
 无限大人のシャツを握る。なんだか甘えたで、子供っぽい。でも、満たされたいから、少しだけ遠慮を忘れることにする。
「会えなくて、寂しかったです」
「私もだよ」
 无限大人は慰めるようにゆっくりと手を動かして、私の背中を撫でてくれる。少しずつ心が満たされていく。ずっとこうしていたい。
「大好きです」
 額に口付けをされて、顔を上げる。暗闇の中で、微かに无限大人が微笑んでいるのが見えた。唇を重ねて、体温を感じて安心感に包まれた。もう少しだけこうしていたら、きっとちゃんと眠れるから。
 もっと触れたい気持ちを抑えて、今はこれで満足する。
 でも、いつかは。新たに生まれた欲求を持て余しながら、目を閉じた。

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