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人が来ない間に掃除をしようと、箒で床を掃いていたら、入口が開いた。 「小香」 「无限大人!」 扉を開けたその人は、私を見つけるとすぐに名前を呼んでくれた。私は箒を壁に立てかけて、无限大人に駆け寄る。 「おかえりなさい!」 「ただいま」 その勢いのまま、无限大人に抱き着く。无限大人は少しよろけて、笑って私の背中を撫でた。 「今帰ってきたところですか?」 「うん」 今は誰もいないけれど、職場なのですぐに无限大人から離れる。離れるのは惜しいけれど。 「すぐに戻れなくてすまなかった。小黒は元気か」 「はい。昨日は公園に遊びに行ったんですよ」 「そうか」 无限大人は目を細めて安心したように笑みを浮かべた。 「小黒、元宵のお団子気に入ったみたいで、たくさん食べてました。ちゃんと无限大人の分も残していますから」 「それは嬉しいな。私もあれは好きだよ。今日食べに行ってもいいだろうか」 「はい! 仕事が終わったら連絡しますね」 「うん。小黒は館にいる?」 「今日は鳩老さんのところにいるはずです」 「じゃあ、会って来よう。お昼は館で一緒に食べれるか?」 「はい!」 お昼を食べる約束をして、館に向かう无限大人を見送り、仕事に戻った。久しぶりに无限大人に会えて、胸がぽかぽかしている。その後の仕事も捗って、時間通りに休憩に向かった。 「无限大人、小黒」 「小香! ご飯食べよう」 二人は先に食堂に来ていた。小黒が手を上げて迎えてくれる。ご飯を注文して、席についた。そこには鳩老と若水姐姐もいた。若水姐姐は无限大人の隣に座り、嬉しそうに尻尾を揺らしている。その反対側には小黒が座っていて、やっぱり嬉しそうに耳をぴんと立てている。二人とも无限大人が大好きで仕方ないという顔をしていて、つい笑みが零れた。でも、无限大人が好きな気持ちは、私だって負けてない。 「師父のいない間、小香とバトミントンして、お弁当食べた話したんだよ。ぼく上手だったでしょ」 「うんうん。小黒、初めてとは思えないくらい上手だったね」 「えへん」 小黒は胸を張ってみせる。无限大人はそんな小黒を優しい瞳で見つめていた。 「バトミントン、私も得意よ! 今度一緒にやりましょ、小黒!」 「うん!」 若水姐姐は小黒と一緒にいると、本当のお姉さんのように見える。二人ともふかふかの耳が生えているから余計だ。小黒は猫で、若水姐姐は狐に似ている。 「しかし、驚いたのう、香ちゃんと无限が」 鳩老は私と无限大人の顔をしげしげと眺めてくる。その視線に恥ずかしくなって、肩を竦めた。館のみんなが知ってくれているのはありがたいけれど、気恥ずかしくもある。でも他ならぬ无限大人のことだから、口の端に上るのは当然のことなのかもしれない。雨桐が无限大人にもし彼女がいたらすぐ噂になると言っていたけれど、本当にその通りだ。 「鳩老は見なかったんでしょ。无限、すごく熱烈だったんだから」 若水姐姐が口元に手を当てて、にやにやしながらからかってくる。そもそも告白するときを皆に見られていたんだった。 「お前さんもやるのう」 鳩老は若水姐姐そっくりのにやにや顔を作って无限大人を肘でつつく仕草をした。私は恥ずかしくて椅子の上で縮こまることしかできない。小黒はそんな大人たちを眺めながら、もぐもぐとご飯を食べている。 「香ちゃんはもうずっとこちらにいるのかい」 「はい。その予定です」 无限大人を伺いながら答える。无限大人は小さく頷いてくれた。 「でも、一度无限大人と小黒には、日本に来て欲しいと思ってるんです。家族に紹介もしたいし」 「そうだな。ぜひ行こう」 「ぼく行きたい! 日本に!」 无限大人も小黒もその気になってくれた。あとはいつ行くかだけれど。 「夏のお盆の時期辺りに帰ろうかと思ってるんですが、でも、无限大人はお忙しいですよね」 无限大人が答える前に、鳩老が首を振りながら言った。 「いやいや。それはもちろん館長も休みをくれるだろうよ。大事なことじゃからな」 「大丈夫でしょうか」 「私たちに任せて! 心配しなくていいからね、无限」 若水姐姐が頼もしい返事をくれた。それなら、少しくらいなら大丈夫かもしれない。二人には、日本をちゃんと見て行って欲しい。きっと気に入ってくれると思う。両親には、帰ってから无限大人とのことを話すつもりだ。電話口で伝えるより、直接顔を見て話したい。大事なことだから。 この人が私の大切な人です、と紹介することを考えて、今からとても照れてしまう。でも、そうやって紹介できることがすごく嬉しい。 私は、この人とずっと一緒に生きます。 その確かな思いが、心の核となって温かな喜びが湧き出している。 「師父、今度バトミントンやろう」 「私も! 一緒にやろう无限!」 「じゃあ、私も。やりましょうね、无限大人」 小黒が手を上げて、若水姐姐が続き、私も乗っかってみる。无限大人は肩を揺らして笑った。 「三人とも、无限、无限と。もうわかったわかった」 そんな私たちに、鳩老は呆れたようにやれやれと首を振っていた。 ← | → |