19.元宵節

 无限大人から連絡が入り、しばらく戻れないと言われてしまった。なので、元宵節は小黒と二人で過ごすことになった。无限大人が任務に行っている間、小黒は私の家に泊まっていた。朝、朝食を食べたら一緒に館に行き、私は職場に、小黒は知り合いの妖精たちを訪ねて遊んでいく。帰る時間になると小黒を迎えに行って、一緒に家に帰る。今日は元宵節なので、買い物をして帰った。
 夕飯を食べた後、元宵団子を茹でる。去年は食べなかったので、実は初めて食べるものだったりする。
「ぼくはね、師父と元宵節のときに毎年食べたよ」
「そうなんだね。美味しい?」
「うん! ちょっと普通のお団子と違うよ」
「楽しみだな」
 小黒は无限大人のことを話すたびに、これをしてもらった、あれをしてもらった、と言うから、いかに无限大人が行事ごとに小黒のためにいろんなことをしているかが伺える。
 沸騰したお湯にお団子を入れる。しばらくすると、つやつやとした丸いお団子が水泡と一緒に浮き上がってきた。それから数分茹でて、器に盛りつける。それを小黒がテーブルに並べて、スプーンを用意してくれた。
「早く食べよう!」
「うん。食べよう」
 私が椅子に座ると、小黒は待ちきれないようにスプーンを手に取ってお団子を口に含んだ。私も熱くないか確認しながらひとくち食べる。黒ごまの香ばしい匂いが口いっぱいに広がった。白玉と見た目は似てるけれど、食感は全然違う。舌の上でとろけて、甘い餡が舌に転がり出てくる。
「ほんとだ。美味しい」
「でしょ! 師父の分も残しとこう」
「大丈夫だよ、いっぱい買ってあるから」
 器に入っている分を避けておこうとした小黒に肩を揺らして、食べていいよと伝える。すると小黒は嬉しそうに目を輝かせた。
「明日も食べたい!」
「じゃあ、おやつにしようか」
 明日はお休みだ。小黒とどこかへでかけてもいいかもしれない。
「小黒、どこか行きたいとことかある?」
「動物園!」
「動物園かあ」
 以前行った動物園を思い出す。あのときはパンダがいなかった。
「今度はパンダ見たいね」
「見たい!」
「でも、せっかくだから无限大人と行きたいよね」
「うん! 師父と三人で行こう!」
 そう考えると、小黒と二人で行くならどこがいいのか悩んでしまう。もうお祭りは終わってしまったし。
「公園に遊びに行こうか」
「いいよ!」
 少し考えて、そう決めた。
「じゃあ、おにぎり食べたい!」
「お弁当作ろうね」
「あとからあげ! それからたこさんウインナー!」
 他にも小黒が好きそうなおかずがないかレシピを探そうと決めて、お風呂に入ることにした。
「じゃあ小黒、お風呂」
「やだ」
「どうして。水遊び好きでしょ」
「どうして入らないとだめなの」
「綺麗にしないとだから」
 えい、と小黒を捕まえようとしたら、ひらりと逃げられてしまった。
「小黒!」
「やだ!」
 しばらくどたばたと追いかけっこをして、テーブルを挟んで睨み合う。
「よし。じゃあ、お風呂入れたらお弁当のからあげ増やしてあげる」
「う!」
 小黒の耳がぴくっとした。もう一息だ。
「入ってくれる?」
「うう……」
 耳をぺとりとして、小黒は構えを解く。力の抜けた小黒の手を掴んで、一緒にお風呂に向かった。

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