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長いと思っていた春節が終わってしまい、また忙しい日々が戻ってきた。无限大人の任務は不定期だ。さっそく仕事が入って、すぐに出かけて行った。元宵節もまた一緒に過ごそうと話していたけれど、難しいかもしれない。そのときは、小黒と二人で過ごそう。 「相変わらず、楽しそうね……」 「あっ、深緑さん! お久しぶりです」 「ふふ。久しぶり……」 そんなににやけていただろうかと表情を繕いながら、顔を出してくれた深緑さんに挨拶をする。深緑さんはゆったりとした動作で椅子に座って、髪をかき上げた。 「新しい年のお祝いのためにお休みだったそうね……」 「そうなんです。あちこちでお祭りがあったんですよ」 「お祭り……。よくわからないけれど、人だらけなんでしょう……」 いやだわ、と深緑さんは頬に手を当てて溜息を吐いた。深緑さんは、人間の街に下りたことがないだろう。彼女も、明俊さんのように、変化が得意ではないそうだ。深緑さんはちらりと私の顔を見る。 「でも、あなたは楽しかったようね……」 「そ、そんなにわかりやすい顔してますか?」 「そんなに、好きな人と一緒に過ごすのは楽しいの……?」 真面目な顔をして問われるので、私は居住まいを正して、心から答えた。 「はい。幸せです。とても」 「そう……」 深緑さんはずっと一人で過ごしてきただろうから、誰かと過ごすことがよく理解できないのかもしれない。そう思ったけれど、深緑さんはちょっと微笑んだ。 「少しだけならわかるかもしれないわ。館のみんなと過ごすのは、楽しいから……」 そう言う深緑さんの表情は、わかりにくいけれど、確かに以前に比べると明るくなっているかもしれない。 「よかったです、ここでの暮らし、気に入ってもらえてるみたいで」 「ええ……。だから、しばらく離れるつもりはないのだけれど……」 深緑さんは笑みを消して、思い返すように視線を落とした。 「聞かれたのよ……。館から離れて、人間のいないところで一緒に暮らさないかって……」 「え? 誰にですか?」 「この館の妖精よ……。名前は、なんていったかしら……。覚えるの、苦手なの……」 「そうなんですね。それで、なんて答えたんですか?」 深緑さんは物憂げな目をして答えた。 「少し前なら、暮らしたいわって答えていたと思うけれど……。今は、ここの暮らしで気になることがたくさんあるから……断ったわ……」 「そうでしたか」 深緑さんがそれだけここの暮らしを楽しんでくれているなら、私としても嬉しいことだった。けれど、深緑さんに話を持ち掛けた妖精のことは少し気になる。 「あなたがいろいろ探してくれていたでしょう……。そういう場所に、行きたいようだったわ……」 「人のいない場所……。そうですよね。やっぱり、そういう妖精、いらっしゃいますよね」 もちろん、そういう妖精の役に立てればと思って集めた情報だから、有効活用してもらえるならそれ以上のことはない。けれど、深緑さんに声を掛けたということは、何人か同じ気持ちの妖精を集めて、一緒に暮らそうと考えているんだろうか。それに賛同する妖精は、この館にどれくらいいるだろう。 「他にも、その妖精は声をかけていました?」 「さあ……知らないけれど……」 深緑さんは髪に指を絡めて遠くを見る。それ以上は情報を持っていないようだった。 「もう、お休みは終わり……?」 「はい。今度、元宵節っていうのがありますけど、その日はお休みじゃないですね」 「そう……。その日は何かするの……?」 「元宵というお団子を食べます」 「ふうん……人間はいろいろ考えるのね……。无限大人と食べるの……?」 「その予定ですけど、まだわかりません。お忙しいから」 深緑さんはそう、と言って会話を切り上げ、帰っていった。次に无限大人と会えるのはいつだろう。窓の外に目を向けて、青い空に想いを馳せた。 ← | → |