17.最後のお休み

 春節最後のお休みは、家の近くに買い物に行って、外で夕飯を食べた。家に帰ってお風呂を済ませ、小黒は先に寝てしまった。残りのお酒を飲んでしまおうと、无限大人と二人でソファに座った。
「どうぞ」
 无限大人の盃にお酒を注いで、自分の分の盃も満たすと、小さな声で乾杯をする。口に含むと、白酒のまろやかな甘味が広がった。
「春節、楽しかったですね」
 長いお休みだと思っていたのに、あっという間に終わってしまった。
「无限大人と小黒と、こんなに長く一緒にいたの初めてでした」
「そうだな」
「誘ってよかったな。无限大人には、窮屈な思いをさせてしまったかもしれませんけど……」
「そんなことはないよ」
 无限大人はお酒を飲み干し、次を次ながら答えた。
「私も、君と過ごせてよかった」
 お酒のせいだけではなく、頬が熱くなる。少し前には、こんな風に一緒に過ごせるなんて思いもしなかった。
「こんなに幸せで、なんだか恐いくらいです」
「そうか?」
 无限大人は面白そうに笑う。
「まだまだだよ」
「まだ……ですか!?」
 これ以上に幸せになるなんて、想像もつかない。
「だって、无限大人と想いが通じて、一緒に春節を過ごせて、指輪も交換してるんですよ。これ以上なんてどうなっちゃうんですか」
「ははは。まだ始まったばかりじゃないか」
「そうですね……」
 そうだ。まだ一月も経っていない。なのになんだか、もう幸せの頂点に達してしまったような気持ちになっている。
「もう、无限大人が大好きという気持ちを伝えられただけで十分だと思ってたのに……それが、こんなことに……」
「それだけで十分だったの?」
「えと……あの……受け止めてもらえると思ってなかったので……それが私にとってはこの身に受け止められる以上の幸福なんです」
「受け止めてもらえないのは困るな」
 无限大人はじっと私の顔を覗き込む。この人の与えてくれるものすべてをちゃんと余すことなく受け止めたい。
「がんばります……」
 目を見つめ返すと、无限大人は微笑んだ。
「君の気持ちを、たくさん聞きたい」
 无限大人は手を握って、私の言葉を促す。
「大好きです……」
 いろいろ伝えたいことはあるはずなのに、言葉にしようとしたらその一言になってしまう。
「无限大人のこと、初めて会った時からずっと、大好きです」
「初めて会ったとき、君はまだ慣れていない様子だったね」
「こちらに来たばかりでしたから。言葉もつたなくて」
「舌ったらずな喋り方がかわいかった」
「うっ……。忘れてください……」
 恥ずかしくて顔を背けたけれど、无限大人の視線は外れない。
「忘れないよ。君との思い出は」
「私も、忘れないです……」
 无限大人と出会って、こうして過ごせるようになるまでの日々は、きっとずっと忘れない。思い出の写真とともに、ずっと大切に抱き続けていく。
「一年間ずっと、无限大人のこと思い続けていたんです。どうしていいかわからなくなるほど……。今は、もっと想いが強くなった気がします」
「私もだよ。今の方がもっと、君のことを強く想っている」
「无限大人……」
 空の盃がテーブルの上に置かれて、顔が近くなる。目を閉じると、唇が塞がれた。腕を伸ばして无限大人の腰に巻き付ける。唇が離れたあとも、寄りかかるようにして抱き着いた。无限大人は、優しく私の髪を撫でてくれた。
「大好きです」
 お酒が気持ちよく回ってきて、ほかほかしてきた。このままずっと、朝までまどろんでいたい。

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