14.春節二日目

 春節二日目の今日は、漢服を来てお祭りを見に出かけることになった。小黒は獅子舞を楽しみにしている。それを見るために、少し遠出した。街は縁日のように賑やかで、いろいろな出店が並んでいた。二人はいろんな店を覗き、いろいろ食べていた。私も少しだけ食べた。小黒は糖葫蘆がお気に入りのようで、无限大人に肩車してもらいながら、片方の手で无限大人の頭にしがみつき、もう片方の手で糖葫蘆を持っていた。
 後ろの方で人々の歓声が上がる。振り返ると、龍舞が激しく動きながら、人々の波をかき分けてこちらへ向かってきていた。私たちも道の端に避けて、龍舞を見送る。たくさんの人が動かしている龍舞は、本当に生きているかのようになめらかに動いていた。小黒は両手を上げて歓声を上げる。无限大人は小黒が落ちないようにしっかりと支えていた。金色の鱗をきらきらさせながら、龍舞は通り過ぎて行った。
「龍、かっこよかったねえ」
「ほんとに。ダイナミックだったね」
 小黒と龍舞の感想を言いながら、移動していく。その間にも二人はまだいろいろと食べていた。よくそんなに食べられるなあと感心していると、美味しいから、と答えが返ってきて笑ってしまった。
「小香は食べないの?」
「そんなに食べたらお腹いっぱいになっちゃうよ」
「大丈夫だよ! まだ食べられるもん」
「あはは。小黒の胃はおっきいね」
 話しながら歩くうちに、関帝廟に辿り着いた。参拝する人や、獅子舞を待つ人でいっぱいだった。私たちもその中に混じり、設置された舞台が見える場所に向かう。无限大人は小黒を肩に乗せたまますいすい動くけれど、私は人にぶつかりそうになって、はぐれそうだったので、无限大人の裾を掴んだ。
「獅子舞、もうすぐだね!」
 小黒はわくわくしながら舞台の方を見ている。それにつられて、私も楽しい気分になってきた。
 やがて音楽が鳴り始め、境内の左右から一体ずつ獅子舞が現れた。二人の人がそれぞれ前足と後ろ足を担当して、獅子を動かしている。
 獅子の大きなぎょろぎょろとした目が光を反射し、てらてらと光る。縦横無尽に飛び跳ねながら舞うと、今度は舞台の外の観客に近づき、その頭を噛み始めた。私たちの目の前にも来て、小黒と私の頭を噛んでいった。大きな口がぱかっと開けられ、頭上に迫ってくるので肩を竦めると、視界がほとんど覆われて暗くなった。そしてすぐに去って行って、隣の人に噛みついていた。少しどきどきしながら小黒と顔を見合わせる。
「これで悪いもの食べてくれたね!」
「厄を祓って、福をくれたね」
「あ、でも師父は噛まれた?」
 小黒は心配そうに无限大人の顔を覗き込む。无限大人は微笑み返した。
「小黒と一緒に噛んでもらったよ」
「じゃあ大丈夫だ!」
 小黒は安心したように笑った。健気な子だな、と暖かい気持ちになる。
 帰りは小黒は自分で歩きたがったので、无限大人は肩から下ろし、手を繋いだ。反対側の手を私と握る。以前は、この三人でいるとき、家族に見えるだろうかと疑問に思っていたけれど、今はどちらでもいい気持ちになっていた。无限大人と小黒は師弟の関係だし、私と小黒は友達だと思っている。傍からどう見えたとしても、その関係は変わらない。
 春節は、大切な人と過ごす時期だ。その時期に、一緒にいられるのだからそれで十分だ。
「そういえば、師父、どうして指輪してるの?」
 ふと、小黒が思い出したようにそう言ったので、どきりとする。繋いだ手が无限大人の左手だったから、気が付いたようだ。
「これは小香にもらったんだよ」
「そうなんだ」
 小黒は无限大人の手を掴み、指輪をじっと見る。
「どうして指輪なの?」
「ずっと一緒にいたいと気持ちを込めて贈るものだからだよ」
「そうなの?」
 无限大人が静かな声で答えるたびにどきどきする。
「小香と師父が、恋人同士だから?」
「そうだよ」
「ふうん……」
 小黒は手を繋ぎなおし、黙り込んだ。小黒には、指輪を交換する意味がまだわからないかもしれない。けれど、恋人同士という言葉は覚えたようだ。その言葉にすぐ照れてしまう。まだしばらくは、この関係に慣れることができなそうだった。

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