11.除夕

 今日は旧暦の大晦日である除夕。一緒に年越しをするために、无限大人と小黒がうちへやってきた。今夜は、年夜飯を作って一緒に食べる予定だ。魚料理やお餅を用意しておいた。春節の期間中は、年菜を食べる。これは日本のおせちのようなもので、縁起の良いものを食べる習慣だ。それから、水餃子も食べるので、これはみんなでこれから作る。春節の間分だから、結構な量だ。餡を捏ねるのも一苦労だった。
「私がやろう」
 大きなボウルと格闘していると、无限大人が代わってくれた。やっぱり力仕事は男の人の方が向いている。軽々とお肉と野菜を混ぜてくれた。腕まくりされて見える腕の筋にどきどきしてしまう。
「はやく包もう!」
 それを見ながら、小黒はもう皮を並べて待ちきれない様子だった。皮も手作りしたものだ。无限大人にこれくらいでいいかと聞かれ、頷く。すると小黒は満面の笑みでスプーンを掴み、餡を掬い取った。
「小黒、それじゃ多くて包めないよ」
「おっきいやつ作るの!」
 皮が見えないほどたっぷりと餡を乗せた小黒に笑ってしまう。じゃあ、とその上にもう一枚皮を被せた。
「これで包めるかな」
「やってみる!」
 小黒が小さな指で皮の端をくっつけようとしているのを見ながら、破けはしないかとはらはらする。
「むむむ……あっ」
 案の定、真ん中が破れて中身が露出してしまった。
「皮はいっぱいあるから大丈夫だよ。やり直してみよう」
「うん!」
 破れた皮をよけて、新しい皮を被せてやると、小黒はより慎重な手つきで包み始めた。その横で、无限大人は黙々と作業をしていた。
「わあ、きれい」
 まるでお手本みたいに綺麗に包まれた餃子がずらりと並んでいる。
 これは、私が作ったのを並べたら見劣りしちゃいそうだ。
「无限大人、上手ですね」
「よく作るからな」
「そうなんですか」
「そうなんだよ……」
 ちょっと得意気な无限大人に対して、小黒はうんざりした顔をしていた。无限大人はきっと小黒のために作ってくれているだろうに、肝心の小黒はあまり喜んでいないようで、なんともいえない気持ちになる。いくら気持ちが大事とはいえ、味が伴っていなければ素直に喜ぶのは難しいだろう。
 でも、そんなに美味しくないのかな……。
 こうして綺麗に並んだ餃子を見ると、疑わしくなってくる。小黒が嘘をついてるとは思わないけれど、それにしたって、それほどなのかな……。やっぱり、いつか无限大人の料理を食べてみたい。
「できた!」
 小黒の手のひらには丸いボールのような餃子が乗っていた。
「破れなかったね。すごい!」
 小黒はへへへと笑いながら、无限大人が作った餃子のそばにでんと置く。ちゃんと火が通るといいんだけど。煮るときは形が崩れないように気を付けよう。
 餃子作りを終えて、一息ついていると夕飯にちょうどいい時間になった。年夜飯を食べて、年越し番組を見ながら談笑する。お風呂に入って、寝る準備をすると、小黒はすぐに欠伸をして寝てしまった。
「すみません、寝るところソファしかなくて……」
 小黒は私の部屋で一緒に寝られるけれど、无限大人はそうはいかない。
「いいよ。どこでも寝られるから」
 无限大人は平気だと答えてくれる。小黒が寝てしまって、二人きりだということに気付いて意識してしまった。
「いつも、起きて年越しするんですけど……无限大人は?」
「私も今年は起きていよう」
 そう言って、お土産に持ってきてくれたお酒を取り出した。
「飲もうか」
「はい。いただきます」
 小さな杯に注いでもらって、乾杯をする。お酒は熱くて、咽喉を焦がした。

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