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「あっ……无限大人!」 職場に彼が姿を現すのは久しぶりで、思わず嬉しくなって出迎えに行った。 「こんにちは」 无限大人はにこりと微笑んで挨拶してくれる。 「今日はどうしましたか?」 「うん。楊に用事だが、君は今忙しい?」 「いえ、そんなには」 无限大人に座ってもらい、お茶を淹れる。楊さんを呼びに行くべきかと思ったけれど、无限大人はそのまま私と話を続けようとした。 「おにぎりはいいな。私の作ったものを、あの子はあまり食べてくれないんだが、あれなら、食べてくれたよ」 「本当ですか?」 お茶を飲みながら、无限大人は思い出し笑いをする。 「小黒がまた作りたいと言ってね。二人で作ったんだ。でも、海苔の味が違うと二人で首を傾げた」 「ああ、日本から取り寄せた海苔だから……。こちらのとは少し違うかもしれません」 「そうだったか。海苔が違うだけでも、君が作ってくれたおにぎりとは違う味になるから。不思議なものだな」 「おにぎりなんて、誰でも握れますよ」 「小黒が握ると、しょっぱくなる」 「……確かに」 小黒が作ったものを一個もらったけれど、その味を思い出してつい頷いた私に、无限大人は笑った。心地いい時間。心臓はとくとくと流れ、ただただ好きという想いを瞳の奥に隠しながら、穏やかな彼の声に答えるこの時間が、とても幸せに感じる。无限大人がこうして話しかけてくれるなら、小黒とのことを楽しそうに教えてくれるなら、それだけでもう充分なんだ。それ以上のことがあるだろうか。 「あ! 无限!」 扉の向こうから元気な声がして、若水姐姐が入ってきた。さっそく无限大人の姿を見つけて、飛び付いてきた。 「久しぶり! ずっと任務に行ってたでしょ」 「最近帰ってきたところだ」 二人が話している間に、若水姐姐の分もお茶を淹れる。 「私も忙しかったから、小黒の相手ができなくて申し訳なかったわ」 「いや。小香が見ていてくれたから」 「ほんとう?」 くりっとした瞳が私に向けられる。そして両手をぽん、と合わせてぱっと笑った。 「それならよかったわ! 小香は館の近くに住んでるし、小黒も懐いてるし、ばっちりね」 「ふふ。小黒が泊ってくれて楽しくて、今は寂しいくらいです」 「また无限が遠出するときは頼ればいいんだわ。ね!」 「そう迷惑はかけられないよ。それに、彼女は帰ってしまうのだし」 「あ、そうだっけ。もう半年くらい経つ?」 「はい」 常に心にある現実。私はここにずっとはいられない。別れるときが、必ず来る。 「寂しくなるなあ。ずっとこっちにいればいいのに。そうよ。そうすればいいわ!」 「そうですねえ……」 まだ半年しかいないのに、もうずいぶん長いこと住んでいるような気持ちになる。でも、半年はあっという間だった。残りの期間も、すぐに過ぎてしまうだろう。 「ね、无限。小香にこっちにいてほしいよね?」 私の気持ちを知っているからか、若水姐姐はわざわざそんなことを聞く。 「无限が頼んだら、小香もこっちにいようって思うでしょ?」 「若水姐姐」 それでは無理矢理言わせてるようで、若水姐姐を止めつつ、でも、と期待してしまう心は止められなかった。 「故郷には家族がいるだろうし、無理には引き留められないが……」 无限大人は控えめにそう付け加えながら、私の方を見る。 「君がいてくれると、小黒も喜ぶだろう」 「……そうですね」 馬鹿だな。なんて言ってくれると思ってたんだろう。 「私も、ここを離れるのは寂しいです」 笑顔を作って、二人に会釈をし、後ろに下がって楊さんを呼びに行く。ダメだな。もう充分だって思うのに。もしかしたら、と思ってしまう自分がいる。好きって気持ちはコントロールが効かなくて、とても厄介だ。 ← | → |