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「あんたたちはおれを苦しめたいのか!?」 そんなことは、と反論しようとするけれど、相手はこちらの話をまったく聞いてくれない。怒りでいっぱいになって、それをぶつけることしか考えられない状態みたいだ。鼓膜が痺れるような大声に、全身が委縮してしまう。 「日当たりは悪い、隣はうるさい、壁はボロボロでカビも生えてたぞ! そういうところがおれにはお似合いだっていうのか! 馬鹿にされたもんだな!」 話をなんとか聞いていると、どうやらここで紹介されたアパートに問題があったらしい。あいにく、担当した人が誰かまではわからず、上司に引き継ぎたいけれど入口で運悪く捕まってしまい、とにかく怒りをぶちまけられている。話を聞く限りでは、確かにそれは怒るのも仕方ない、とも思える。実際に部屋の状態を見ていないから確かなことは言えないけれど。 「ひどいところに押し込めて、おれにくたばれって言うんだろ、人間にとっちゃ妖精なんて邪魔なだけだろうからな!」 「そんなことは絶対にありません! 私たちは……っ」 今は反論するのは得策ではないけれど、それだけはどうしても否定したくて、声を大きくする。でもそれが余計に相手を煽ってしまったようで、さらに怒られてしまった。 「そっちがその気ならおれにも考えがあるぞ!」 彼の怒りが高まるにつれて、空気がざわりとする。私にはそういう方面の才能はからっきしないけれど、彼が術を使おうとしているのはわかった。 「っ……!」 逃げることもできなくて硬直していると、彼の身体ががくりと倒れ、地面に膝を折った。その身体を上から押さえているのは、无限大人だった。 「こんなところで何をしようとしている」 「げっ、无限……!? なんでここに!」 「用があって来てみれば、喚く声が聞こえたからな」 「小香!」 奥から楊さんたちが慌てて駆けつけてきて、无限大人に彼を解放するよう伝えた。 「失礼いたしました。お話は奥で伺いますから」 「ふんっ……」 彼は襟を整え、楊さんたちに従って奥へと連れて行かれた。私はその姿が見えなくなってから、ふうと息を吐く。いまさらながら、恐怖がじわじわと背筋を這いあがってくる。もし、无限大人が来てくれなかったら、私はいまごろどうなっていただろう。 「大丈夫か」 「あ……、はい。おかげさまで助かりました。ありがとうございます」 「間に合ってよかった」 彼は私の様子を見て、ほっとしたように微笑を浮かべた。 「少し座って休みなさい。お茶を淹れよう」 「あの、でも」 それは私の仕事だ。お客様にそんなことは、と思ったけれど、自分の手が震えていることに気付いた。 「ありがとうございます……」 大人しく座って、呼吸を整える。彼が淹れてくれたお茶の暖かさが身体中に染み渡って、心を落ち着けてくれるようだった。ほっとしたせいか、じんわりと涙が滲む。 「気にするな。君は悪くない」 「いえ……。大丈夫です。あの人の言うことはごもっともですから」 できるかぎりのことはしたいと思うけれど、たくさんの我慢を強いていることもわかっている。不満があって当然だ。 「だから、できる限りのことはしたいです」 それが私が選んだ仕事だから。思いを受け止めることも、そのひとつだ。 「あなたのように、強くなりたい……」 思わずつぶやくと、彼はおかしそうに笑った。 「私のようになると、憎まれてばかりになってしまうよ」 「そんなことはないでしょう」 「さっきのように、力で押さえることが多いからね」 彼はなんでもないことのように言い、お茶を飲む。 「君は君の強さを持っている」 そして、そう言った。 どくん、と心臓が鳴る。 一人の人間として認められたようで、嬉しさにどうにかなってしまいそうだった。 ← | → |