デートした話A

 今日は目的地の駅で待ち合わせをした。電車に乗って、何度も待ち合わせの時間に間に合うか不安になったりして。向こうから連絡が来ないかも何度も確認して、先についてたら待たせちゃうな、なんて考えていると、いつもより早く各駅を通り過ぎていく気がする。
 駅に降りて、ロングスカートの裾をちょっと持ち上げながら小走りに階段を上がり、改札を抜ける。少し先に、彼がいた。
「无限大人!」
「小香」
 駆け寄って、ほっと息を吐く。すぐに合流できてよかった。
「お待たせしました」
「私も今来たところだよ」
 行こうか、と彼がごく自然に私の手を握る。いまだに慣れなくて、指が触れたときにどきんと心臓が跳ねてしまう。
「何か欲しいものはあるの?」
「いくつかありますけど……いろいろ見て回りたいです!」
 駅前のショッピングモール。久しぶりに来るから、ラインナップも変わってると思ってそう告げる。入口の近くのお菓子屋さんでは、ホワイトデーの商品が並んでいた。
「君はどんなお菓子が好き?」
「既製品が好きです」
「え」
 訊ねられて間髪を入れず答える。たぶん、手作りしようかな、ってちょっと考えてたんだと思う。それはとても困るので、ここははっきり言っておく。
「お店のお菓子が好きですよ」
「………………そうか……………………」
 とてもしょんぼりされてしまったけれど、こればかりはしかたない。もちろん作ってくれるその気持ちはとても嬉しい。でも、気持ちだけではどうにもならないことは世の中にはあるので。そのことを、そろそろ自覚してもらってもいいんじゃないかと思うんだけどなぁ……。
「あ、木製の腕時計ですって」
 おしゃれなブランドの店舗が期間限定で開催していた。彼はおしゃれな人だから、こういうのも似合いそう。でも、普段つけることはないだろうし。お財布なんかも使わないから、どういうものをプレゼントしたらいいんだろうかと、いつも迷う。結局、食べ物に落ち着いてしまう。
 店内を一巡して、二階の奥にあるカフェで休むことにした。
「この店のワッフル、とっても美味しいんですよ」
 一度、一緒に来たいと思っていた。レジで注文をして、奥の席に座る。コートを脱いでハイネックのセーター一枚になる姿に、どきっとする。ふとしたときにときめいてしまうのは、きっとずっと変わらないんだろうな。
「大人が選んだの、美味しそう」
「一口食べるか?」
 彼はいたずらっぽく笑って、フォークに刺したワッフルをこちらに伸ばしてくる。照れてしまったけれど、そのまま口で受け取った。
「どうだ?」
「……美味しいです……」
 もごもご答える私に、彼は満足そうに微笑む。そのあとは一階を回って、充分に買い物を楽しんだ後、駅の改札口前でお別れすることになった。一緒にいる時間が楽しい分、離れるのがいつも寂しい。
「電車、出るまでまだ十分ありますから……」
 そう言いながら、改札を通るのを遅らせようとする私の手を、彼はきゅ、と握ってくれる。
「次は、すぐに会えるから」
「はい。楽しみです」
 いつか、一緒に住むようになって、そうしたら、別れることなく同じ家に帰ることができる。でもそれはまだできないから。
 離れている間は寂しさが募るけれど、同じくらい愛おしさも増している。彼もそう思ってくれているといい。
「小香」
 愛を込めて、名前を呼んでくれる彼に、泣きたい気持ちになる。
 今は指を離してしまうけれど、でもそれはまた繋ぐためだから。

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