お休みの日

 今日は二人そろっておやすみの日。天気が心地よくて、つい二度寝してしまった。せっかく一緒にいられるんだから、ちゃんと起きればよかったかも。もったいないことをしたな。その間、彼は一人で何をしていたんだろう。
 遅めの昼食を摂って、暖かいリビングでのんびりする。彼は本を読んでいた。構ってほしいけれど、邪魔をするのも忍びない。こっちに気付いてくれないかな、とそわそわしていると、彼がぱたんと本を閉じた。
「小香。おいで」
「はい!」
 私は嬉しくて即座に返事をする。彼の隣に膝をついて、彼の顔を覗き込むと、彼は髪を撫でてくれた。
「今日は天気がいいから、どこかに行ってもいいかもしれないね」
「そうですね。でも、こうしてゆっくりしてるのもいいです」
 外に出かけるのも楽しいけれど、こんな風に触れ合うことができないから。
 胡坐を組んでいる彼の足に、ごろんと寝転がり頭を乗せると、彼はくすりと笑った。
「まだ寝たい?」
「充分寝ました……」
 答えながら、背中に流れている彼の髪を掬いとって、指に絡める。つやつやしていて、さらさらで、とっても綺麗な髪。
「髪、切らないでくださいね」
「長い方が好き?」
「大好きです」
 毛束を顔に寄せて、匂いを嗅ぐ。彼の匂いがほのかに香る。
「君は、髪を伸ばしているのか?」
「もう少し伸ばしたいですね」
「そうか」
 今は肩に届くくらいの長さで少し中途半端だ。
 彼は髪で遊んでいる私の顔を眺めていたけれど、手を伸ばしてきて頬を撫でたり、顎をなぞったりし始めた。
「さくらんぼのようだ」
 そう言いながら、唇を摘ままれた。
「美味しくないですよ」
「どうかな。試しに食べてみようか」
「だめです」
 顔を近づけようとする彼に笑いながら顔を背けて、逃げようとする。起き上がって距離を取ろうとしたら、後ろから抱きしめられてしまった。そのまま横を向かされて、味見される。
「……やっぱり。美味いよ」
「もう……」
「もう一口」
 腕の中で腰を捻り、彼に向き合う。求められるまま、何度も唇を重ねた。彼の唇はなんの味だろう。ずっと味わっていたい。
 想いが胸のうちから溢れてきて、際限なんてないようで。愛されているという事実に触れるたび、これ以上ない歓びに満たされる。
 胸板に手を置くと、セーターの生地越しにその硬さを感じる。その逞しい腕がぎゅ、と輪を縮めるので、密着度が増す。
 自分の鼓動の音に、彼の音が重なる。直にその振動が伝わってきて、さらに鼓動が速くなる。
 夜になる前に、彼は小黒の元に帰っていく。いつまでも独占はできない。寂しいけれど、だからこそ一緒にいられる時間をより幸福に感じるのかもしれない。
 そのままカーペットの上に寝転がり、ただ寄り添い合うだけのこの時間を贅沢に思った。手を握ると、指が絡んできて、そのまま口元へ運ばれた。彼の唇はしっとりとしていて、暖かい。
 もう片方の腕を枕代わりにして、彼の瞳に魅入る。彼は私の視線に気付いて、微笑んだ。
 今は、言葉はいらない。
 こんなにも心が近くにあるから。

|