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「わーい! カレーだ!」 小黒はスプーンを持った手を頭上に突き上げて喜びを全身で表してから食べ始めた。そんなに気に入ってくれて嬉しくなる。无限大人も一口食べて、頷いた。 「うん、この味だ」 「やっぱり、お店の味とは違いますね」 自分で作ったカレーを食べて、どうしてこんなに味が違うのだろうと不思議になる。やっぱりお店ではルーを手作りしたりするんだろうか。 「ぼく、小香のカレー好き!」 「ふふ、ありがとう」 小黒はいっぱい食べて、おかわりまでしてくれた。无限大人も負けじと二杯目を食べる。たくさん作ったつもりだったカレーはあっという間になくなってしまった。 「私もカレーを作れるようになろうかな。レシピを教えてくれないか」 「いいですね」 「小香だめ! 教えないで」 「えっ」 无限大人にレシピを伝えようとしたら、小黒に厳しい声で止められてしまった。そういえば、无限大人は料理が不得意だった。火事にでもなったら大変だし、やめておいたほうがいいのかもしれない。あの小黒が、こんなに真剣な顔で止めるのだから。 「小黒は私のカレーを食べたくないのか」 「うん」 「なぜ……」 きっぱりと答える弟子に、師父は悲しそうにする。その顔を見ると、料理できるようにお手伝いしましょうかと言いたくなる。きっと、慣れていないだけで、練習すればできるようになるんじゃないだろうか。无限大人にできないことがあるだなんて、いまだに信じられない。 「片づけは私がしよう」 食器を流しにつけていたら、无限大人が腕まくりをして私の隣に立った。肩が触れそうになって、どきりとする。大きな手が皿を持ち、スポンジを泡立て、汚れを落としていく。せっかくだからお願いすることにして、小黒と選んだ写真を見返すことにした。 「小黒、虎を怖がってたね」 「怖かったんじゃないよ。警戒してただけ」 「ふふふ」 同じネコ科、と言っていいのかわからないけれど、猫の妖精である小黒から見れば、虎はそれだけ脅威だったのだろうか。もちろん、檻があるから安心して眺めていられるだけで、本来はあんなに近づくことなんてできないけれど。 「ねえ、今度はどこに行く?」 「そうだね。どうしようか」 「ぼく、パンダ見たいよ」 「見たいね」 中国に来てパンダを見ないというのももったいない話かもしれない。もう七月も終わるころだ。もし出かけるなら、八月になるだろうか。あと三ヶ月。十月には帰るための準備をするから、あまり遊ぶ暇はないだろう。そうすると二ヶ月しかない。まだ余裕があるようで、きっとあっという間に過ぎてしまう。 「小香?」 考え事をしていたら、小黒に顔を覗き込まれてしまった。 「小黒とたくさん遊べて、楽しかったなって思ってたの」 「ぼくも楽しいよ! いままではね、師父と二人ででかけてたけど、小香がいたらいろんなことお話してくれるし、美味しいお弁当作ってくれるし、楽しい!」 「ふふ、よかった」 小黒が私の存在を受け入れてくれていることが改めて嬉しくなる。小さな子に無条件に好かれることは本当に心を満たしてくれる。 「師父もね、小香がいると嬉しそうだよ」 「そ、そうかな?」 「いっつもね、小香を誘おうかって言ってくるよ」 「そうなの……?」 小黒はこそこそと声を潜めて、耳元でそう教えてくれた。もしそうなら、喜んでしまう。 「また内緒話?」 洗い物を終えた无限大人が、手を拭きながらこちらを見てきた。私と小黒は顔を見合わせて笑い合い、「内緒!」と声を揃えた。 ← | → |