65:Assault on Zaude

 ザウデ不落宮は武装で固められていたが、始祖の隷長フェローがザウデの上空を飛び交い、主砲を引きつけている間に、バウルは船を不落宮に接岸した。
 陸ではアレクセイ親衛隊が侵入者に目を光らせていた。正面突破するのは難しい。どこか他に入り口はないかと捜してみると、通風孔が見つかった。間口は人が身を屈めて通れるほどだ。
「僕の出番だね!」
 カロルは袖を捲くって気合を入れると、通風孔を塞いでいる鉄格子の螺子を外した。錆び付いているのか少し手間取っていたが、ほどなくして鉄格子が外された。

 不落宮の中は青い光に満ちており、神秘的な雰囲気を醸し出していた。武器の中とは到底思えない静寂。これが星喰みにも対抗する力を秘めているのだから侮れない。
「あっちに道が続いてるわ」
「アレクセイは主砲のある場所……ここの頂上にいると思う」
 リタの推測に、セシリアはバカとなんとかは高いところが好きってね、と呟いて肩を竦めた。バカの方を濁すんじゃないのか普通、と突っ込みつつ、ユーリはドアを開けて道を進んだ。
「気をつけて。何かいるわ」
 ジュディスが槍を構えたのに続き、全員戦いの体勢に入る。何か、というからには親衛隊ではなさそうだ。瓦礫の向こうから現れたのは、海洋の魔物だった。
「魔物の住処になってるのか!」
 魔物を切り伏せながらフェリクスが叫ぶ。長い間地底で眠っていた不落宮は、海の魔物たちの城と成り果てていたのだろう。それだけの時間放置されていたのにも関わらず、その力自体は弱まっていない。恐るべき技術だった。
「親衛隊よりも、こっちの方がやっかいかもね!」
 ファイヤーボールをばら撒きながらリタが言う。
「リオ、フェリクス! 三班に分けるわよ!」
「了解!」
 魔物の数を見て、事前に決めてあった班にセシリアは人数を分けることにした。リオ、フェリクスがそれぞれリーダーとなり、班を率いる。魔物が分散され、より戦いやすくなった。
「切りがねえ! 先へ進むぞ!」
 襲ってきた二体の魔物を同時に切り捨てるや、ユーリは剣を逆手に持ち直し駆け出した。
 次の部屋にも魔物がいる。突然の騒がしさに寝ているところを起こされたのか、妙に機嫌が悪いようだ。
「ただでは進ませてくれないのね」
 道の前にずらりと並んだ魔物を前に零しつつ、対照的にセシリアの表情は愉快だ。
 アレクセイと組み合う前の手慣らしにはちょうどいい。このまま勢い余ってぶつかるよりは、幾分か冷静になれるというものだ。
「とはいえ、あまり遊んであげる時間はないわ! 通らせてもらうわよ!」
 剣を振り被ると、セシリアは魔物の群れへ突入した。
 不落宮の壁はところどころ崩れており、落下した瓦礫が上手く魔物を分断していた。囲まれる心配はあまりしなくてすむ。そう判断して、セシリアは一点突破の構えだ。
「ったく、猪突猛進に歪みねえな!」
 前進あるのみとばかりに突き進むセシリアが切り開いた道を進みながらユーリは苦笑を零す。
 そこにまたわらわらと集まってくる魔物を一網打尽に吹き飛ばした。
「あの二人、どんどん先に行っちゃうよ!」
 振り回したハンマーを一度地面に置いて、カロルは部屋の反対側へすでに行ってしまった影を振り返る。
「メテオスォーム!」
 そのとき詠唱を終えたリタが、火球の雨を降らせて部屋の魔物を一掃した。
「さっさと行くわよ!」
「やっぱりあの人、根っからの戦い好きね」
 飛び跳ねるように剣を振るうセシリアを遠巻きに見ながら、ジュディスは目を細めた。彼女は自分の戦い方を、まるで舞うようで美しいと褒めたが、セシリアの戦い方もよっぽど楽しそうだ。
 魔物の手を読み、間一髪で交わして懐へ飛び込み、急所を一撃するその手際は見事なもので、まるで敵が彼女に踊らされているようにさえ見える。ひらひらと動き回り一時だって休んでいない彼女は鋭い針を持って敵へ刺す蜂を彷彿とさせた。鮮やかで、淀みない。
 そして彼女の側でアクロバティックに駆け回る黒い影。時折白刃が宙を舞うのは跳ね飛ばされたわけではなく、反対側の手で受け止めたところ一回転し、敵の首を跳ね飛ばすなんて凝ったことをやってみせる。こちらはこちらで、大道芸でも披露しているような戦い方だった。
 二人が進んだ後には、綺麗に命を断ち切られた屍が累々と積まれている。今、あの二人を止められるものは何もない。
「絶好調ねぇ」
 弓矢に持ち替え、動く敵のいなくなった道を直走りながら、レイヴンは呆れたような感心したような笑みを零した。



 そこは一段と広いホールになっていた。魔物の気配もなく、セシリアは立ち止まって部屋を見渡す。ほどなくして全員が集まったので、セシリアはユーリと顔を見合わせた。
「行く手にはドアが二つ。左右対称に並んでるわね」
「となれば、両方行ってみるっきゃねえな」
 どちらのドアがどこへ繋がっているのかわからないとなれば、片方だけを選んで間違った場合の時間の無駄を考えれば、そう考えるのは至極当然のことだった。今までもそうやってきたのだから、話し合う必要はそもそもない。常に行動あるのみだ。
「先にアレクセイを見つけても恨みっこなしだぜ」
「もちろん、後から駆けつけてきたって活躍の場が残ってるとは思わないことね」
 二人はしばし目を見交わし、頷いた。
「じゃ、行くわよ皆!」
 セシリアは右のドアを選び、仲間たちと共に進んでいった。ユーリらは同じく左のドアを潜る。その先には廊下があり、上へと伸びる階段があった。
 ここを進めばアレクセイが待っている場所に辿り着く。そう信じて、セシリアは階段を登った。
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