06: What do you believe in?

 窓枠の向こうに空が見えないかと首を捻った。頑張って目を見開くと、屋根と屋根の隙間から少しだけ青を見ることができた。すぐに草臥れて正面の建物に目線を下ろす。そっけない灰色の壁だ。この壁がなければ滝が見えたかもしれない。耳を澄ませば大量の水が水面を叩く音が聞こえる気がした。この街の北部には天然の外壁とも形容できそうな、巨大な滝があった。
 少し前は滝から伸びる川を横断するため起伏を降り、また登るという過程が必要だったが、ここ新興都市ヘリオードが出来てからは滝と目線を同じくしながら川で分断された大陸をまっすぐに進むことができるようになった。
「……続けて、18番目の罪状を確認する」
 セシリアは欠伸を噛み殺し、肘をついていた手を動かして丁度いい場所を探す。窓枠に乗せた片足が痺れそうだったので爪先を軽く捻った。眠い。
「……で、あといくつあんの?」
 飽きてきたんだけど、ユーリはいかにもうんざりといった口調で投槍に言った。退屈するほど罪状があるなんてさすがだわ、とセシリアは心の中で呟いた。もう口を開くのも億劫だった。カルボクラムからトリム港へ戻ったら、すぐに宿で休もうと思っていた。それなのに、トリムから西に向かった先、つい最近出来たというヘリオードという街に連行されてしまっている。セシリアはカルボクラムの入り口で待ち伏せていた騎士団隊長の顔を思い出して苦々しく眉を寄せた。眠いせいもあってかかなり目付きが悪くなった。
「……ボクはどうなっちゃうんだろう」
 道連れとばかりにユーリの隣に座らせられているカロルは、膝に抱えた大きな鞄に力なく手を置いて弱々しく呟いた。カロルもリタも、ユーリと一緒にいたと言うだけで、彼の犯した諸々の罪状を読み上げる冗長でつまらないイベントにつき合わされている。
「反省の色はなし……と」
 調書に残してやるのだ、とアデコールは嬉しそうに告げた。ようやく悲願達成して長年に渡り追いかけっこを続けてきた鬼(普通は逆だけれど、彼に対する形容としてはそれなりに似合いだ)を捕縛出来たのだから思わずほくそ笑むくらいは許されるだろう。
 とはいえ、そろそろ終わりにして欲しいという思いも切実だ。この薄暗い部屋に閉じ込められてからいったいどれだけの時間が無為に流れて行っただろう。これだけの時間があれば、風呂に入り、暖かい物で胃袋を満たし、ふかふかのベッドを堪能しながら夢も見ないほどの惰眠を貪れるというのに。
 長々とした余罪の列挙は仇敵にいくらでも聞かせてやればいいから、彼以外は解放してくれてもいいと思う。ユーリ以外に罪があるとすれば、高貴な方を危険な結界の外で連れ回した、その一点だけのはずだ。ノール港執政官邸宅での騒動は、被害者本人がうやむやにしてしまっている。
 セシリアが何度目ともしれない欠伸を噛み殺し損ねたとき、ドアが無断で開かれた。続く罪状を述べようとしていたルブランや、デコボコは入ってきた人物を見るや直立不動の姿勢を取った。
「ア、アレクセイ騎士団長閣下!」
「アレクセイ……、なんで」
 帝国騎士団の頂点に位置するその人は、クリティア族の特別諮問官を従えて、ユーリの元まで歩を進めた。恐縮しているカロルや驚いているリタに一瞬目をくれて、ユーリを見据えるとアレクセイは重々しい声音で告げた。
「エステリーゼ様、ヨーデル様、両殿下のお計らいで君の罪はすべて赦免された」
「な」
「なんですと!?」
 こいつは帝都の平和を乱す凶悪な犯罪者で、と思わず抗議の声を上げたルブランの言い分は聞き流された。ソファから立ち上がったユーリに向けて、アレクセイは続ける。
「ヨーデル様の救出並びに、エステリーゼ様の護衛、騎士団として礼を言おう」
 控えていた諮問官に目配せすると、彼女はユーリに掌大の小さな包みを差し出した。思わずセシリアの視線がそれに吸い込まれる。しかしユーリはにべもなく褒賞の金貨の受け取りを拒否した。
「騎士団のためにやったんじゃない」
 諮問官はアレクセイの顔を伺ったが、アレクセイはそうか、と一言で引き下がった。小包は再び諮問官の懐に仕舞われる。セシリアは小さく溜息を吐いた。用件は済んだとアレクセイが部屋を出て行こうとするので、ユーリはその背中を呼び止めた。
「それより、エステルだが」
「先ほど、帝都に戻る旨、ご承諾いただいた」
「ええっ!」
 すっかり雰囲気に飲み込まれていたカロルがソファから飛び上がった。しかしすぐに声を落として、気落ちしたように呟いた。
「……あ、でも、お姫様なら仕方ないか」
 次期皇帝候補の一人、エステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン。それがエステルの身分だった。貴族の、それも高い位の生まれだろうことはセシリアも予想していたが、まさかヨーデルと同じ位だとは思いも寄らなかった。騎士団が目の色を変えて彼女を取り戻そうとする理由もそれでわかった。
「姫様には宿でお待ちいただいている。顔を見せてあげてほしい」
 アレクセイは最後に人情を感じさせるような笑みを残すと、諮問官を伴って退室した。
さて、とセシリアは腰掛けていた窓枠から降りると、ぐい、と背伸びをした。
「これで晴れて自由の身ね。街に出ようよ、皆」
「おう。じゃあなルブラン、それとデコボコ」
「デコボコと言うな!」
「であーる!」
「くぅ……。ユーリ、もう二度と顔を見せるなよ!」
「そう願いたいな」
 わなわなと身体を震わせるルブランに肩を竦めて、ユーリは扉のノブに手を掛けた。


 *


「風が気持ちいいーっ」
 解放された喜びを胸いっぱいに吸い込んで、セシリアは心地よく冷えた風を全身で受けた。隣でラピードがワンと同意する。リタは渋い顔をして首を回し、身体を解した。
「はあ、だるかった」
「……エステル、帰っちゃうのかな」
 ぽつり、とカロルが呟いた。彼はエステルの身分に特に衝撃を受けたようで、まだそのショックが抜け切れていないらしい。
「なんたって次期皇族候補だもんね。さすがにこれ以上はよくないんじゃない?」
「本人が決めたことだしな」
「そりゃ……そうだけど」
 リタはユーリ達の言い分に同意しかねるように言葉を濁した。今後を決めるのは彼女自身だ。これ以上この場で言い合っても始まらない。
「少し街の中でも見てまわるか」
「私宿屋行きたい」
「あんた、まだ具合悪いの?」
 疲れた顔をしてみせるセシリアにリタが訊ねた。普段なら嫌味っぽくなるところだが、それが妙に素直な声音であることをカロルは耳ざとく聞きつける。
「エステルの代わりにセシリアの心配してるの?」
 無邪気な問いには鋭い眼光と容赦のないチョップが与えられた。
「また倒れられたらメーワクでしょ!」
 肩を怒らせたまま、リタは私は好きにさせてもらうから、と言い放って、誰の答えも待たずにその通りにしてしまった。カロルは蹲って抑えていた頭をそっと上げて、その背中を見送りながら口の中でなんだよ、とぼやく。ふと顔を上げるとセシリアと目が合った。セシリアはにっこりと笑って見せた。
「んじゃ、さっさと宿取りに行くか。カロルはどうする?」
「あ、僕も街を見てこようかな」
「それじゃ、集合は宿屋ね。あとでね、カロル」
「うん。ゆっくり休んでね、セシリア」
 ラピードもユーリとセシリアに断るように一声鳴くと、尻尾を揺らして街へ繰り出していった。彼らを見送って、ユーリ達は宿を探して歩き始めた。
「この街、できたばっかりなんだな」
「そうみたい。もしかしたら造るかも、っていう噂は聞いてたんだけど。本当にできたのね」
「ふうん。……まだまだ、発展途上って感じだな」
 広場のいたるところで施工の音がし、忙しく材木を運ぶ人たちが行き来していた。組み上げられた石はまだ汚れておらず、白い。要所要所には騎士が立ち、働く人達に指示を出していた。その白い鎧が目に付く。
「ここは騎士団が多いのね。本部も置いてあるし……」
「そうだな」
「ここから西へ行くと、ダングレストがあるのよ。そこはギルドの街なの」
「ギルドの?」
「帝国の管理下から完全に抜け出した、ギルドによる、ギルドのための街。その近くに騎士団の本部があるっていうのは、ちょっといやな感じね」
「そうか……」
 帝国直属の騎士と、帝国の庇護を嫌った人間が集まったギルドとでは、色々と確執があるのだろう。帝国が一切関与していない街があることは知らなかった。少し興味を覚えてセシリアに訊ねようとしたところ、セシリアはあっと声を上げて立ち止まった。
「……フレン!」
 そしてすぐさま駆け出す。ユーリも向こうから現れた金髪の二人組みを見つけた。
「セシリア。ユーリも」
「なんだ、ご両人、やっぱりいたのかよ」
 フレンの隣に立つのはヨーデルだった。セシリアはフレンに気安く話しかけようとして慌てて止める。
「ユーリ、殿下に対して少し口の利き方が失礼だ」
「そうよ。少しどころじゃないわよ」
 今大手を振って歩けるのは彼とエステルが口添えしてくれたからに他ならない。対して、いいんですよと静かに言うのは当のヨーデルだった。
「あなた方に恩があるのはこちらの方ですから」
 沈み逝く船から彼を救い出したのもまたユーリだった。ヨーデルの笑みは柔らかい。皇族というのはこうも穏やかなものなのかとセシリアは意外に思う。貴族なら誰もが多かれ少なかれ持っている浅ましさ、顕示欲、傲慢さ……そう言ったものは見受けられない。
フレンはヨーデルに目礼すると、ユーリに向き直った。
「エステリーゼ様のことは、もう聞いてるみたいだな」
「ああ」
「君たちと一緒に居るほうがエステリーゼ様のためになると思ったんだが……」
 半分独り言のように言うフレンに、ヨーデルは笑う。
「貴族がむやみに出歩くものではありませんからね」
 その辺りの事情は複雑なようだった。キュモールやルブランはエステルを帝都に取り戻そうと躍起になっていたが、フレンの方はむしろ帝都から引き離したく思っているように見える。
 先代の皇帝が五年前に崩御して以来、次期皇帝の座は埋まっていない。どちらも決定打に欠ける中、騎士団が後ろ盾になっているヨーデルと、評議会の推すエステリーゼに二分され、権力闘争はますます悪化の一途を辿っているということだった。
 表立った抗争にまでは発展していないが、裏では様々な糸が引かれ、謀議が交わされている。現にヨーデルは評議会のラゴウに亡き者にされるところだったのだ。エステルはフレンが暗殺者に狙われていると知って城を出たが、結果的にそれが彼女自身を救ったことになるのかもしれない。
 政界というものは聞いているだけでうんざりする世界だった。
 エステルはそこに帰っていこうとしている。そこが彼女の生まれ育った世界だから。
「そりゃ、騎士団も大変だな」
「ユーリ、セシリア、今話したことは」
「わかってるよ」
 他言無用の内容だということは最初にヨーデルが今は皇族の問題を表沙汰にする時期ではないと言っていたことからも明白だ。
 政界とのしがらみも嬉しいことにまったくないからわざわざ話して聞かせる相手もいない。念を押すフレンに、ユーリはこれから宿屋で休むから、と断って立ち去ろうとした。
ユーリが踝を返す前に、ヨーデルが口を開いた。
「お二人は、エステリーゼと一緒に旅をしていたんですよね」
「はい」
「時間があれば、旅の様子を聞きたかったのですが」
 そうも行きませんね、とヨーデルは苦笑した。その笑顔はエステルと似ている。柔らかな雰囲気のせいか、遠いとはいえ血縁だからだろうか。ただ、年齢の関係か、ヨーデルの方が比較的落ち着いているようだ。
「あの、ヨーデル殿下」
「そんなに畏まらなくていいですよ」
「ええと、それじゃ、ヨーデル」
 ふわりとした笑顔に釣られて、セシリアは敬称を略した。エステルともう一度顔を合わせたとき、姫様だと知ったからといって今までの態度を改めるのは無理そうだと思いながら、口を開く。
「エステルは帝都に戻るそうだから……どうか彼女を、守ってあげてください」
 この台詞に、始終細められていた彼の青い目がゆっくりと見開かれた。エステルは権力争いの醜い闇に穢れていない。彼女に似たこの若き皇子もまたそうであると、セシリアは彼の笑顔を見て感じていた。そんな二人なら、騎士団と評議会という枠を超えて、手を取り合うことは可能ではないのか。
「フレンが騎士だからという理由で、エステルを守れないようなことがないように、取り計らってあげてください」
「セシリア」
 お願いします、とセシリアは頭を下げた。フレンは嘆息ともつかない声で幼馴染の名を呼んだ。ヨーデルはしばらく、そのまま微動だにしない彼女を見つめていたが、また穏やかな表情を取り戻すと顔を上げてください、と促した。
「あなたがエステリーゼを大切に想ってくれていることがよくわかりました。私も、出来る限りのことはすると約束します」
「あ、ありがとう……!」
「……俺からも頼む」
「はい」
 重ねて頼むユーリにも快く頷いて、ヨーデルはフレンを従えて騎士団の本部へと去って行った。
「……まさか、皇族に頭を下げるとは思わなかったな」
「だって、ユーリはあの子が心配じゃないの?」
 そりゃそうだが、とユーリは肩を竦める。
「あのお坊ちゃんに、それだけの力があるかどうか」
「そういう問題じゃないの」
「じゃ、どういう問題だ? 気分の問題か?」
「……そんなに皇族が嫌い?」
「んな話はしてねえだろ。あの次期皇帝候補自身の問題だ」
「そう。ならいいけど」
 セシリアはふいと身体の向きを変えて、さっきから視界に捕らえていた宿屋の看板目指して歩き出す。
「私は、あの人を信用したいなと思ったの」
「それだけ?」
「それだけ。問題ある?」
「いーや。別に」
 そうはいったが、問題はあるといえばある、と思う。貴族、あるいは権力者がいったいどういう種類の人間なのか、彼女はいやというほど見てきたはずだ。彼らがいかに醜悪で、卑劣で、冷酷で、自分の利益しか見ずそのためならどんなことでもしでかすことを、彼女は知っているはずだ。
 それなのに、権力の頂点に一番近い人間を、こうも簡単に信用しようとする。確かに彼はまだ若く、穏やかな仕草が人となりをよく見せる。だが、だからこそ腹の底では何を思っているか、表に纏った光が強いほど、中に落ちる闇もまた暗くなるのではないか。
本人が望むと望むまいとに関わらず、そういう闇が必要な場所に、彼は生きている。
 そういう彼に彼女が頭を下げたことが無駄になるようなことがあるなら、そしてそれはそうありえないことではない。無駄になるどころか、無情に踏み躙られるかもしれない。
そのとき傷つくことになるのは、その優しく素直な心だろうに。
 一歩前を歩く、自分の目線より少し低い頭を見る。髪が歩くたびにふわりふわりと揺れていた。セシリアは腕を背中の後ろで組み、拘らない調子で言う。
「フレンとも親しそうだったし。いいじゃない」
「まあ、さっさとあいつが皇帝になって、フレンがその右腕として力を振るうようになれば、ちったあ俺達も楽できるかもな」
「そうそう。そうなったらエステルは旅し放題かな」
「ははっ、違いない」
 そうなればカロルもリタもきっと喜ぶ。ルブランなんかは頭を抱えるかもしれない。
「さーて、ようやく休めるかなっ」
「ほーう、ゆっくり休めると思ってるのか?」
 宿も確保できて、改めて身体を伸ばしたセシリアの背後で、ユーリは不穏な笑みを浮かべる。セシリアはそれを無視してベッドに飛び乗った。すると遠慮なくユーリが覆い被さって来るのでセシリアはそれを迎え撃つ。
「おっ、元気じゃねーか」
「狭い部屋でじっとしてたからうっぷん溜まってるのよ」
「俺も色々溜まってるぜ」
「よし、表へ出ろ!」
「せっかくベッドがあるのに? 休もうぜ」
 構えをとっているセシリアを難なくベッドに押し戻して、ユーリはそのままセシリアを拘束した。掛け布団はしばらくごそごそとうるさく音を立てていたが、そのうちセシリアが抵抗を諦めた。
「おやすみ、ユーリ」
 そう言ってすぐ横に並んだユーリの唇に軽く触れる。そのまま目を閉じて丸まってしまったセシリアに、ユーリは彼女の背中に回した腕をどこへ持っていこうか迷ったが、安らかな寝息が聞こえてきたので結局そのまま自分も目を閉じた。
 セシリアは彼の胸板に頭を押し付けてじっとしていたが、頭の上から聞こえてくる呼吸が静かに、ゆっくりになったことを確認すると布団から這い出した。
 身体の上から腕がすとんと落ちたが、彼女を引き戻そうと動く気配はなかった。
「自分こそ疲れてるじゃない」
 ぷつ、と左の頬を突いてやる。爪が伸びていたから少し食い込んだ。ユーリは何か呟いたようだが、明瞭な単語にはならなかった。弛緩した寝顔が、普段よりやけに幼く見える。
「私だって、子供じゃないんだからね……」
 頬から耳へ、耳の後ろから首筋へ、掌を辿る。黒い髪が指に触った。
「対価も、それに対する覚悟も、当然あるわよ」
 傷つかないようにと守ってくれる腕。いつも彼らはそうだった。
 三人は対等だったけれど、気がつけばどちらかの腕が、または両方が、彼女に降りかかる火の粉を払ってくれた。一時はそれが疎ましいくらいだった。自分一人だけが無力で、役に立たない子供だと思い知らされるようだった。彼らは無意識に、当然のようにそう振舞うのだから性質が悪い。
 外に出て、その腕がなくなっても、彼女は自分一人で炎を消すことができることを証明した。けれど、何かが上手くいかなかった。それは前から襲い掛かる脅威ではなく、足元を揺るがすなにかだった。
 どんなにしっかり立とうと足腰に力を入れても、地面が不確かではままならない。
安定を齎してくれる存在が、セシリアにとってはユーリだった。
 しばらくの離別の後の再会が、それを彼女に悟らせた。
 ユーリがいてくれれば、セシリアはしっかりとした土台の上で、思うとおりに力を発揮できる。どんなに傷を受けても、苦しみを与えられても、それを乗り越えていける。そういう予感があった。誰かを信頼するということと、裏切りを恐れることは違うことだ。
裏切られたらそのときはそのとき。受ける傷なんて微々たるもの。少なくとも、彼が案じるよりは。
「勝手に失望して落胆するなんて、もう慣れたしね」
 ぴん、と指に絡んだ髪を弾く。布団を肩の上まで引っ張ってやって、寝かしつけるようにぽんぽんと叩くと、セシリアは隣のベッドに移動した。
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