バトルスピリッツ


姫様といっしょ




「ん? そういえばあいつがいないな」
 いつもなら肩に伸し掛かり、べったりとくっついていくら引き剥がそうとしても離れないリル。スタジアムにいるのに肩がやけに軽いと気づいたら、妙な気分だった。
 舎弟たちが顔を見合わせ、あいつなら……と教えてくれた。
「朝っぱらから海で泳いでるっす」
「水泳大会でもあるのか」
「さあ……」
 はっきり答えるものはなく、皆視線を泳がせる。なんでもいいが、まとわりつかれないならありがたい。
「自分は少し出かけてくる」
「戦国チャンピオンシップ、出るのは絶対姫っすよ!」
「頑張ってください、姫!」
 兼続と利家、どちらと組むか。幸村との出場を賭けたバトルだ。
 チャンピオンシップに出るなら、幸村と組むことは絶対条件。二人のどちらにも譲れない。リルに邪魔されないうちに急ごう。

「あ、早雲!」
 スタジアムを出るところでばったりリルと出くわしてしまった。リルは海から上がったばかりといった体で、髪からはぽたぽたと海水を垂らしている。タオルを被っているが、水着のままだ。
「馬鹿者!」
 髪を拭け、シャワーを浴びろ、服に着替えろ、と小言を言いながらどうせ自分ではやらないのだからともどかしく、タオルでリルの髪をわしゃわしゃと拭いてやる。
「風邪を引いても知らんぞ」
「えへへ、一緒にはいろ」
「馬鹿者」
 タオルをしっかり身体に巻き付けてやり、その上から冷えた肩を擦ってやる。リルはにこにこ笑って突っ立っているばかりで、シャワーを浴びに行こうと言う気概が見えない。
「こんなに冷えるまで泳いでいたのか」
「うん! チャンピオンシップに向けて鍛えないとね! 最強の青使いは姫だって全国に知らしめてやるんだから!」
「はぁ……」
 大馬鹿者、としか言葉が出てこない。彼女が大真面目に語るたび、こちらは呆れるばかりだ。
「自分はもう行くぞ」
「どこに行くの? 私も一緒に……」
「来なくていいからシャワーを浴びて着替えろ。いいか、付いてくるな。これは大事な戦いなのだ」
「戦い!? 兼続と利家と、幸村を賭けてバトルするのね!?」
「そうだ」
「絶対姫が勝つよ! 幸村と私と姫が組めば怖いものなし!」
 はあ、また盛大に溜息を吐いてしまった。いつまでもこいつと話していては日が暮れる。自分はリルに背を向け、歩き出した。
「決めるのは兼続と利家と自分のうち、どの二人が幸村と組むか、だ。お前の席はない」
「そんな!? 私バタフライ泳げるんですよ!」
「関係ない」
「姫ー! 私を捨てるなんてひどいー! 遊びだったのね!」
「なんの話だ……」
「うう、姫ぇ。私を選んでくれないなんてリル悲しいぃ」
「気色悪い、馬鹿者」
「姫ー!」
「ああ、うるさい!」
 まったく、とんだ駄々っ子だ。
「自分は高みを目指す。そのために彼らが必要なんだ。自分と組みたいなら、強くなれ! リル!」
「姫……!」
 リルは目を潤ませ、感極まったように自分を見上げた。
「感激した! 姫! 私もっと頑張るよ! 姫に相応しいバトラーになるために! だからその日まで待っててね!」
「ま、待てリル、どこへ行く。シャワールームはあっちだ!」
「うおお! 燃えてきた! バトルするぞお前らー!」
「服を着替えてからにしろ馬鹿者!」
 まったく、困ったものだ。
 強さがやる気に比例するなら、すべて解決なのだが。



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