tinted autumnal leaves
「ねえ、出掛けようよ」
木陰で涼むバローネに背を向けたまま呼びかける。裸足のつま先でひらひらと積もる落ち葉を蹴りあげた。
「ひま」
はらはら、赤や黄色の葉っぱが舞い上がり、ゆっくりと地面に落ちていく。そのままどこへなりとも自由に飛んでいけばいいものを。風に乗るには色褪せすぎていて、十分光合成を行い、使命を果たし尽くした身体を地面で横たえ、ゆっくり休みたいらしい。
「ひー、ま」
分解されるのを手伝ってやろう。
足の指で脆い枯れ葉をちょいちょいとつつく。やる気のない分解作業で、葉っぱの切れ端が指の間にくっついた。
「たいくつ」
足で落ち葉をかき集め、こんもりと盛り上がったところに狙いを定めてつま先を突っ込む。うまい具合に風を取り込み、気持よく落ち葉が舞い上がった。
ああ、暇だ。
「ねーえ」
暇に飽かして落ち葉で遊ぶ私をよそにバローネは何をしているのかと言えば、これまた暇そうに眠っている。ふわふわの腐葉土の上に横たわり、そよそよと落ちる木の葉の影の中、それはもう心地よさそうに眼を閉じている。
一枚、綺麗な赤い色の葉っぱを見つけ、拾い上げる。
「バローネ」
それを眠る彼の口元に持っていった。バローネが呼吸するのに合わせて、葉っぱが震える。
どうやら生きてはいるようだ。
「ねえ」
バローネの胸の上に乗っかって、赤い葉っぱをバローネの額の上に飾る。それでも動こうとしないものだから、周辺からきれいな落ち葉を見つけては集めて、バローネを飾ることにした。
落ち葉でデコレーションされていくバローネはいよいよ肖像じみて来て、木の枝で額縁も作ってあげなきゃいけない気がしてくる。
手でカメラを作り、シャッターを押す。うん、この角度、絶妙。鼻筋が一番綺麗に見える。
「芸術的」
ひとしきり眺めて満足し、虚しくなってバローネの胸の上に顎を置いた。いい加減、反応なさすぎ。
「ちょっとぉ。そんな好き勝手されてていいんですか」
顎を置いたまま喋ってるから胸に振動が直に伝わっててうざいはず。なのにバローネの表情はぴくりともしない。
「もっと好き勝手しちゃうよ」
ちゅーかくすぐりか、それともいっそ全身を落ち葉で埋めて埋葬してあげようか。そのまま五百年くらい眠っちゃいそう、この魔族様は。
隣で私は飲まず食わず、残りの一生を愛する人の側で過ごし、躯となって骨となって、最後に残った灰は風に吹かれて、バローネが目覚めたときにはもう何も残ってないの。
「いっそ殺してくれればいいんだ」
私だけ年を取るなんて不公平。
その前にその手で息の音を止めてしまってよ。でもその後バローネが一人で生きていかなきゃいけないのは可哀想だから、私がこの手で心臓の鼓動を止めてあげよう。
それなら公平。
「……ふ」
落ち葉が動いたと思ったら、バローネが笑ったらしかった。いつの間にやら薄めを開けて、胸の上でごろごろしている私を見ていた。
「何笑ってるの」
「退屈そうだな、リル」
「聞いてた?」
「いいや。聞こえぬな」
「聞こえてたでしょ」
「さあ。聞こえぬ」
何も、とバローネはとぼけて、私の身体に腕を回す。腕は私を抱きしめるのかと思ったらもっと上の方に伸ばされ、私の首に長い指が絡みついた。
「この口が零す戯れ言など、意味もない。取るに足らん」
「私の本音を簡単に流さないでよ」
首に巻き付く手に自分の手を添える。
そのまま体重を掛ければうまいこと気道が潰されて脳が酸欠になりそうだ。
バローネは首に掛けた手をさらに上に移動して、私の頬に添え、もっと近くに、と引き寄せた。仕方なく私はバローネの身体をよじ登るように引き上げ、キスをした。
深い口付けに意識を混濁させたまま、息を奪われて酸欠になるのもそれはそれでいいかも。
「ねえ、もっと、もっとさ……私を愛してよ」
「何を急ぐ」
「時間なんか、全然ないんだよ。きっとこの瞬間も一瞬で過ぎてしまうんだから」
「そんなことはない」
バローネの言葉はどこまでも優しくて、もどかしい。
天に輝き続ける月こそあなた。
ならば私は刹那を生きる蛍の光。
どんなに懸命に愛したところで、この身を焦がす程に光を灯したところで、夜の暗闇を一寸も照らし出せはしないんだ。
「俺は眠い……」
バローネは満足気に私を抱きしめたまま、また眼を閉じる。
こうしてもう一週間。落ち葉が全部落ちてしまうまで、あなたはここで眠り続けるつもりなの。
だったら私は、木の枝全部切り落として、あなたを枯れ葉で埋めてしまおう。
(寿命の違い。短命だから焦るヒロインと長寿だからのんびりすぎるバローネ)
prev next
モドル