さらば故郷



 胸騒ぎを抱えたまま、ラキは父の元へ向かったがなかなか捕まらず、副団長に伝言をしひとまず部屋に戻るしかなかった。翌朝はまだ何も変わったことは起きていないと思われた。しかし、朝食を摂る前にそれは起きた。
「お嬢!」
 部屋に飛び込んできた警備兵に振り返ると同時に、コロニー全体が振動した。
「なんだ……?」
「お逃げください! 攻撃されています!」
「コロニーが!? なら私も戦う!」
「ラキ! お前は逃げろ!」
「父さん!?」
 警備兵の後から飛び込んできた父は、見れば額から血を流していた。
「離して! ギルドの奴らだろう!? どうして逃げるんだ! 倒してやろう!」
「間に合わん。コロニーは捨てる」
「そんな……!」
 あっさりと言い捨てられ反論しようとしたが、父の鬼気迫る表情に出食わして、ラキは息を呑んだ。
 コロニーは惑星を保たないキャラバン・スパルナの民の家であり、国であり、故郷だ。それを捨てても、生きることを優先しなければならない。苦渋の決断だったに違いない。それほどの判断をすぐに下せる父を、アムリタの太陽のようだとラキは思った。
 あまりに眩しく強い光を放つ、すべての物事の中心にどっかりと据えられた恒星。
「父さん」
「よく聞け。ラキ。究極のバトスピを手に入れろ」
「えっ……?」
 突然聞き覚えのある懐かしい単語が耳に飛び込んできて、ラキは一瞬危機を忘れそうになった。
「どういうこと、父さん」
「宇宙船ドゥルガーのキーだ」
 父は答えず、真新しい鍵をラキに握らせる。そして頭をしっかりと撫でた。
「船と民がある限り、スパルナは滅びん。行け、ラキ!」
「父さ……!」
 ぐい、と宇宙船に押し込まれる。新品の小型船だった。父は自動航行スイッチを入れ、ワープを起動する。
「待って、父さん! どうして」
 父はラキの頬に手を添え、一瞬だけラキの顔をしっかりと見つめると、コロニーへ戻っていった。宇宙船の扉が閉まる。AIはワープに必要な作業を開始し、自動航行により宇宙船がするりと発射する。船が係留所から離れた瞬間、桟橋が爆発した。窓から巨大な宇宙船と、それに対抗する護衛艦隊の連合が見えた。
「ダイク……! 父さん! 皆……っ」
 コロニーからスパルナの長距離航行船が複数飛び立つ。黒い惑星の影に隠れるように漂っていたコロニーが、鮮やかな爆炎に彩られる。爆炎はいくつもいくつも上がった。
「わっ」
 窓にへばりついていたラキの身体は、どこからともなく伸びてきたアームに捕まり、軽々と椅子に座らせられた。すかさずベルトが締められ、ラキの身体はがっちりと固定される。
「ワープ準備に入ります。搭乗者の皆様は、シートベルトを締め、備えてください」
 AIによるアナウンスが流れ、窓にシャッターが降りる。ワープ装置が起動し、宇宙船ドゥルガーは亜空間へ突入した。

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