クリスタルを求める冒険者たち!


「お、来たな」
 宇宙船に戻るためにきた道を戻っていると、一隻の宇宙船がこの惑星に着陸するのが見えた。レイの知り合いが乗っているらしい。レイは宇宙船の乗組員とカードバトルステーションで落ち合った。
「よ、キリの字。首尾はどーだ」
「上々だな、そうだろう? ミロク」
「うん。ただ、こっちにはクリスタルの情報はなかったよ」
 水色の髪に褐色肌の男(レイより年上のようだ)と、萌黄色の髪を三つ編みにした幼い少年がレイの仲間のようだった。一緒にクリスタルを探しているのだとレイが教えてくれた。
「彼女は?」
 水色髪の、キリガという人がラキを紹介するようレイに言った。
「こいつはラキ。訳あって知り合ったキャラバンの人間だ。俺はこれからこいつを家まで送ってやらなきゃならねえから、それまで別行動で頼むわ」
「えっ、だって、クリスタルの情報があってもなくても、ここで合流して次に向かうって話だったじゃないか」
 別行動と聞いて、萌黄色の髪のミロクが異を唱えた。
 てっきり、レイは一人で旅をしているものだと思っていたけれど、先約があったのか。ラキは少し気が引けて、レイの様子を窺う。
「悪いな、ミロク。こいつは俺の問題なんだ。俺はこいつの船を壊しちまった。だから責任を持って送り届けてやらなきゃならねえんだ」
「それなら……それなら、僕達一緒でもいいでしょ」
「ミロク」
 キリガが追いすがろうとするミロクを引き止めた。
「これは一番星の仕事だ。一番星、彼女を無事に送りとどけたら合流しよう」
「すまねえな、キリの字」
 キリガとレイの間で話が決まってしまい、ミロクは俯いた。ラキが申し訳ない思いでミロクを見ると、ミロクはその視線に気づいて、きっと睨みつけてきた。
「ラキと言ったか。こいつのせいでとんだ災難だったな」
 キリガがラキに話しかけてきた。落ち着いた雰囲気だ。この三人のまとめ役をしているのかもしれない。
「いや。あれは事故だったし。そもそも私が意地を張ったのが悪かったんだ」
「おおかた、追いかけっこでもして君を煽って、小惑星群に突っ込むか何かしたんだろう」
「どうしてわかるんだ?」
 見てたのか? と眼を丸くしたラキに、いつかしでかすんじゃないかと案じていた、とキリガは苦笑した。
「船が大破するほどの事故とはな。君が無事なのが奇跡だ」
「自分でもそう思う。レイが助けてくれたんだ」
「あいつが起こした事故だ、当然だな」
「面目ねえ」
 レイは肩を竦めるばかりだった。
「きっちりケツ拭いてこい」
「わーってるよ。じゃああとでな」
 レイはなおざりにキリガとミロクに手を振ってステーションを出て行った。
「出発するぜ、ラキ。もう買い忘れたもんはねーか?」
「うん。大丈夫」
 レイとラキを乗せた宇宙船は惑星サフサフから離脱し、キャラバン目指して進路を取った。



 ラキはさっそく買ってきた服に着替えると、レイに借りたものを洗濯して返却した。
「ああ、別にいいのに。それにしても……」
 レイは服を受け取ったものの綺麗に畳まれていたそれを適当に放り投げ、しげしげとラキを眺めた。
「な、なに?」
「ちょっともったいねぇ気もするなぁ……いや、今の服もすっげー似合う! だがなぁ……ロマンが……」
「はぁ……?」
 ぶつぶつと何か言いたげなレイだったが、ラキにはよくわからない。しかしぶつぶつ言ってすっきりしたのだろう、レイは最終的にはにっと笑った。
「その髪飾り、付けてくれてんだな。今の服とばっちり合ってるぜ」
「せっかくの贈り物だから……ね」
 そうは答えたものの、なんだか恥ずかしくなってしまって、あとでこっそり外そうかと思ってしまったラキだった。贈ってもらったばかりなのだから外してしまったら悪いだろうと思うのに、レイが髪飾りを付けた自分の姿を見て喜んでいるのを知ると、妙に恥ずかしい。
 いままで髪飾りになんて気を使ったことがなかったものだから、挿していることに違和感を覚える。曲がっていないか、落ちてしまわないか、普通に座っているだけでも常に気になって気が気じゃない。
 ああ駄目だ、こんなこと気にするなんてらしくない。
 ラキは意識を髪飾りから引き離すことにした。
「さっきの、キリガとミロク……だっけ? 二人と一緒に旅してたんだね、レイは」
「ああ。今は情報収集すんのに別行動取ってたんだ」
「よかったの? サフサフで合流する予定だったんだろ」
「お互い情報らしい情報入手できなかったからな。また別れて探したほうが効率がいいってもんだ」
「そっか」
 ラキの心には、ミロクの表情が引っかかっている。
 彼は予定を狂わされて怒っていたようだった。
「いつからクエスターやってるんだ?」
「いつからだっけかなぁ」
「どうしてなろうと思ったんだ?」
「銀河一のクエスターになるために決まってる!」
「キリガとレイだと、どっちがバトル強いんだ?」
「銀河一強い俺様だ!」
「キリガとレイって、性格反対っぽい」
 一番一番と連呼するレイと、冷静なキリガの雰囲気を比べてみて、ラキは吹き出してしまった。それはそれでバランスが取れているんだろう。
 気が付くと、レイの方は見るからに機嫌が悪くなっていた。
「さっきからよく喋ると思って聞いてりゃぁ、なんだ? キリガキリガって、お前キリガのことばっかじゃねえか!」
「え? そうだっけ」
「そうだ! もっと俺様のことを聞けよ!」
「聞いてるじゃないか」
「キリガと俺を比べてる!」
「それは……他のクエスターを知らないから、レイがどれだけすごいのかわかりづらくって」
「俺は銀河一のバトラーだ! ふらふらしてねぇで俺様だけ見てろ!」
 何かの拍子でスイッチを入れてしまったらしい。テーブルをバンと一打ちしてずいっと迫ってくるレイに、ラキは目を白黒させた。
 普通に会話をしていただけのつもりだったのに、どうして怒らせてしまうんだろう。
 もっと打ち解けられればと、そう思っていただけなのに。
「まさかああいうのが好みなのか……?」
「何が?」
「かーっ、埒があかねえ」
 よくわからないうちにレイは首を捻って、かと思えば頭をかきむしり、後ろに引くと椅子に座り直して腕を組んでなにやら考えこんでしまった。
 何を考えてるんだろう。
 レイみたいな人はキャラバンにはいなかった。
 恐ろしく自信家で、直情的で、自分本位。
 自分の意見を曲げず、人と衝突することを恐れない。
「……なんだよ」
「いや、何考えてるのかなーって」
「俺の悩んでる顔が面白いか?」
「何考えてるのか全然わからないから、面白いというわけではないかな」
 いくらレイの気むずかしい横顔を眺めていても、まるで思考は読めそうもなかった。
「……俺もお前が何考えてんのか全然わかんねーよ」
「え、そうか?」
 ラキの考えてること。今は……と、ラキは思っていることそのままを口に出す。
「今は、レイが何に怒って、何を考えこんでるんだろうって、そんなことを考えてるよ」
「……つまり?」
「だから、レイの」
「俺様のことだけ、を考えてるわけだな?」
 レイはなんだか不敵さを取り戻した表情で、ラキを振り返った。
「そうだね」
「よし、いいぞ」
 ラキが頷くと、ぐっと拳を握った。
 あれ、機嫌直ったのかな。
「そのままずっと俺様のことで、お前の心ん中いっぱいにしとけ!」
「あっ、だからって私はレイの物にならないからね!」
 レイの企みがようやくわかって、慌てて否定したラキだったが、もう遅い。上機嫌なレイはラキの言い訳なんか聞いちゃいなかった。
「私はキャラバンに戻るんだから!」
 だから、キリガやミロクと一緒にクリスタルを探して冒険しているレイの側にはいられないし、彼らのために宇宙船を誰よりも速く――銀河一のスピードで、クリスタルのあるところまでは届けてやれない。
 ラキははっとして、自分が今何を考えていたのかに気づく。

 私は、もしかしたら。
 レイと離れがたく思い始めてる……?

「ラキ?」
「っ、何!?」
 眼をあげたら、すぐそばにレイの顔があった。
 ヘタをすれば鼻先が触れ合ってしまいそうなくらいの距離。ラキはひっくり返りそうな勢いで後ろへ下がった。んなにビビんなくても、とさすがにレイは傷ついた顔をする。その表情を見てラキはひどく申し訳ない気持ちになった。
 違うんだ、拒否したわけじゃなくて。
 でもそんなことを言ったら受け入れてるみたいに聞こえるかもしれないけど、でもそうじゃないんだ。
 それはダメなんだ。
 ダメだから……だから。
「いや、今度はお前が考えこんじまったみてーだなと思ってよ。なんだ、キャラバンが恋しくなったか?」
「そりゃあ……あたりまえだよ。早く帰りたいさ」
「お前の故郷だもんな」
「うん。私の……帰る場所だからね」
 いつか必ず帰るから。
 だから……この旅がちょっとでも長く続いて欲しいと他愛もなく、願うというほどでもないけれど、望むことくらいなら許してもらえるんじゃないだろうか。
 窓の向こうに広がる星空を眺めながら、誰にともなく言い訳をするラキだった。

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