宇宙一を賭けたバトル!


 一人夕飯を食べていると。
 レイが無言で操縦席に座り、宇宙船は近くの惑星に降下し始めた。
 ラキがどこに行くの、と聞くとレイは素っ気なく「寄り道」とだけ答えた。

「ここに来るのは初めてか? ラキ」
 レイに訊ねられ、ラキは頷きながらも、その目は初めて来る惑星の街並みを覚えるために忙しく動いていた。
「惑星サフサフ。こじんまりして、恒星からもちょうどいい位置にあるんだな。覚えておこう」
 キャラバンの使う航路からはかなり外れる場所にあるためラキはいままで立ち寄ったことがなかった。
 寄り道と称して降り立った惑星で、レイは迷いのない足取りで露天の中を突き進み、カードバトルステーションに直行した。ラキは露天に並んだ商品に気を取られかけたが、逸れては困ると急いでレイの背中に揺れる長い髪を目印にして走った。

 ステーションにはカードバトラーたちが情報やカードのトレード、そして各地から集まってきたバトラーたちとの勝負を目当てに屯していた。
 レイがカウンターに座って注文するのを真似て、ラキも隣に座る。
「ご注文は?」
「えっと、同じものを」
 マスターは言葉少なにシェイカーを振り、二人の前にアイスたっぷりのコーラを置いた。
 レイはアイスをガリガリと砕き、コーラを一気飲みする。ラキはコップから溢れそうな大量のアイスを見てしばし考え、レイと同じように飲むのは諦め、マスターにスプーンをもらった。
「おいマスター。この辺にクリスタルはねえのか」
「さて、聞きませんねえ」
「じゃあなんか面白い情報ない?」
「そうですねぇ、ここにはトレード目的の方が多く来てますので、デッキを強化してみては?」
 レイは店内に視点を一巡りさせて、まさしくトレードで盛り上がっている一角を見つけた。
「どんなカードが揃ってんだ?」
「おう、Xレアじゃなきゃお断りだぜ、兄ちゃん」
「へえ、そりゃいい。見せてみろよ」
 ラキもレイの隣に来て、カードバインダーを覗き込んだ。
「お、このカードいいな」
「この中で一番価値のあるカードってどれ? どれくらいの価値なの?」
 ラキの質問に、バインダーの持ち主はあれこれと答えてくれた。
「ふうん、こういうカードがレア度高いんだ」
「あのなぁ、ラキ。カードを高価かどうかだけで見るんじゃねえ」
 レイは値踏みしてばかりのラキに怒ってしまったようで、バインダーを閉じると交換もせず、ステーションを出て行ってしまった。ラキは慌ててその背中を追いかける。
 どうも機嫌を損ねてばかりだ。
「レイ、まだ宇宙船に戻らないの?」
「入用なものもあるだろ。店はあっちだ」
「入用って……あ」
 レイが向かっていたのは日用雑貨や服飾などが並べられた露天だった。大通りの両側にずらりと並んだ店にところ狭しと置かれた品物たちに、ラキの目は奪われる。先ほど素通りしてしまったから、もう寄れないかと思っていた。
「そうだ、服と、あと歯ブラシと……」
 必要なものはたくさんある。幸い財布は持っていたから、ラキは存分に買い物をした。
「これで二週間、不自由せずすみそうだ。ありがとう、レイ」
「……別に。ついでだ、ついで」
 レイはふいっと顔を背けたが、もうそれほど怒ってなさそうだった。
 もう必要なものはないかな、とラキが荷物を確認していると、レイがある店の前で足を止めた。
「レイ?」
「おいおっちゃん、この髪飾り……」
 レイが店主に声を掛けようとすると、向こうからラキたちと同じように店を眺めていた男女の二人組が同じ店で足を止め、男の方が店主に声を掛けた。
「この髪飾りいくらだい? マイハニーにぴったりだぜ」
「おい、待てよ」
 男が指差したのは、レイが買おうとしていたものだった。
「それは俺が一番に見つけたんだ」
「はぁ? お前も彼女にプレゼントしようって?」
 彼氏はレイの側に誰がいるかときょろきょろ見渡して、ラキを見つけ、ぷっと吹き出した。
「おいおい、どう見たってこの髪飾りが世界一似合うのはマイハニーだぜ!」
「やだもう」
 彼女は彼氏に肩を抱き寄せられ、頬を染める。
「世界一だと……軽々しく言ってくれるじゃねえか」
 レイはさっとデッキを抜いた。
「ターゲット!」
「なっ、お前、横取りする気か!」
「バトルではっきりさせてやらぁ。この髪飾りが宇宙一似合う女は誰かってな!」
「ちょっと、レイ!?」
 話に置いて行かれ気味なラキをよそに、レイはバトルフィールドに突入した。
「ゲートオープン! 界放ッ!」
 大量の買い物袋と共に、ラキはバトルフィールドの観覧席に引きずり込まれた。
「な、なにここ?」
「ラキ、そこでよく見てな! 俺が本物のバトルスピリッツってのを見せてやるぜ!」
「ええっ、バトルするの!?」
 ラキが状況についていけないまま、バトルが始まった。それは素人のラキが見ていても一方的な試合だった。
「今日は腹が立ってんだ。徹底的にのしてやる! 一番星のターンッ!」
「嘘だろ、ライフ一回も削れないとかっ!」
 彼女の応援も虚しく、彼氏はレイに瞬殺された。
 バトルフィールドから戻ってきた彼氏は項垂れて、彼女に支えられながらどこかへ去って行った。その姿に同情を覚えつつ、これが厳しい銀河バトスピ法なんだ、とラキは胸を抑えた。
「ほら」
 レイは店主から買い取った髪飾りをラキに差し出した。わざわざバトルをして勝ち取った髪飾り。それを受け取る理由がラキにはない。
「どうしてそこまでして」
「いいから、つけてみろって」
 レイはラキが受け取ろうとしないので、勝手に髪に差した。
 そして戸惑っているラキの顔をじっくりと見つめ、にっと笑った。
「思った通り、この髪飾りが宇宙で一番似合うのはラキ、お前だな」
 やっと笑ってくれた。
 もう怒ってない。
 それどころか、私のために贈り物をくれるなんて、変な人だ。
 ラキの胸に色々な思いが沸き上がってくる。
「ありがとう、レイ」
 レイが見せてくれた本物のバトル。
 そのとき感じた興奮と熱は嘘偽り無くラキの血液を沸騰させ、滾らせた。それは認めなくちゃいけないだろう。


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