お化けなんか怖くない!

「怪しい匂いがする……」
 リゾート地、グリーンスムージーに来ていたレイ達だったが、ムゲンは鼻をひくひくさせて茂みの方を睨んだ。
「怪しい匂い?」
「なにそれ?」
 ライラとリクトは首を傾げる。
「そういえば、何かの気配を感じるような」
 ソルトは巨大昆虫が近づいているのではと警戒して虫除けスプレーを振り回した。不安そうな顔をしているリリーを見て、レイは励ますように、そして何かのときは守れるように、その手を握る。
「大丈夫だ、俺がついてる」
「ええ」
 リリーはそんなレイに微笑みを浮かべてみせる。
「お化けだったりして」
 リクトがそう言った瞬間、リリーの手を握るレイの手からぶるっと震えが伝わってきた。リリーがレイを見ると、レイは固く口を縛って茂みを注視していた。
「そ、そんなわけあるか!」
「えー? もしかしてレイ、お化けが……」
「怖くない!」
 にやりと笑ったライラが言う前に、レイは断固として否定した。いつもとは明らかに違うレイの様子が、本心ではどう思っているのかを悲しいほどにわかりやすく表していた。
「きっと虫よ」
 リリーはガチガチになったレイの体から緊張が解けるように、優しく手を握り返してやる。
「ムゲン、その茂みに何か……」
 リリーに言われる前に、ふらふらと茂みの方へ飛んでいってみたムゲンは、突然茂みから飛び出してきたものに吹き飛ばされた。
「ムゲン!?」
「わあっ! なに!?」
 飛び出してきたものはライラを捕まえると、あっという間に連れ去ってしまった。
「待ちなさい! ライラー!」
「いやああああ、たすけてえええええ」
「追うぞ!」
 レイたちは機敏にライラの後を追いかけた。だがライラを攫ったゴリラたちの足は獣のごとしで、すぐに森に生えた大きな木の向こうに消えてしまった。
「大変だ、お姉ちゃんが」
「こっちの方角か!」
 レイが先頭を走る。リリーとリクトがその後を追う。
 傍から見ていた三羽鴉はレイを脅かそうと、お化けの格好をして飛び出してきた。
「うわぁっ!」
 白い布をかぶった姿に、レイは度肝を抜かれて飛び上がる。
「ええっ、本当にお化け!?」
「レイ、落ち着いてー!」
 リクトとライラも驚いたが、それ以上にレイの慌てぶりに注意を引かれる。何があっても動じず、どっしりと構えていたレイが、取り乱している。リリーの手前、みっともなく騒ぎ出して逃げるような真似はしないが。
「俺は大丈夫だ! 怖くない! リリー、逃げるぞ!」
 レイはガクガクする膝を励まして、しっかり繋いだリリーの手を引っ張ると森の中を一目散にひた走る。三羽鴉の誘導だとも気づかずに。
「レイ、待って、この先は……」
 お化けの正体が三羽鴉で、どうやらどこかに連れて行くつもりらしいことを知ったリリーはレイを引き留めようとしたが、お化けに逆上しているレイの暴走をなだめることは難しかった。

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