オレの一番星

「今回のお宝はなかなかだったな、レイ!」
「…………」
「勝負もスカーッと勝ったし! 文句なしだな、レイ!」
「…………むす」
「もーう! なんなんだよ! さっきからずーっとむすーっと眉間に皺寄せちゃってさ! どーしたんだよ? 何が不満なわけ?」
 耳元をパタパタと飛び回りわめくドラゴンを怒るでもなく、レイは手をひらひらと振ってうるさいと追い払うだけで、無言で一番星号に乗り込む。ときには口で怒鳴られるよりも態度だけで拒絶されることのほうが辛いというものだ。ムゲンはレイそっくりに渋い顔を作って、それでもめげずにレイの後を追いかけた。
「なあー、レイってばあ! ほら、リリーに今回の活躍教えてやろうぜ!」
 レイはちらりとコックピットのほうを見やるが、一瞬目を向けただけでキッチンに引っ込んでしまった。
 きっと大好きなリリーに会えば元気が出る。おいらだってへろへろなとき、テレビでマジカルの笑顔を見ればたちまち元気百倍になるんだもんね! ムゲンはそう決めて、リリーの部屋のドアをたたいた。
「リリー! 今帰ったぞー」
「あら、おかえりなさいムゲン。お宝は見つかった?」
「もっちろんだぜ! 聞かせてやるよ、レイの大活躍の様子!」
 ムゲンが何か言う前に、スターダストコーラを片手にレイが部屋に入ってきた。
「レイ、おかえりなさい」
「俺のコーラー!」
 ムゲンはレイの手からアイスなしのコーラを受け取り、美味しそうにごくごくと飲む。そんなドラゴンをよそに、レイはまっすぐにリリーを見つめていた。
「リリー!」
 レイはずっと抱え込んでいた想いをリリーにぶつける。
「なんで一緒に降りてくれないんだよ! 俺の戦いを一番傍で見ててくれるって約束しただろ!」
 リリーは白熱するレイとは対照的に、憂いげに息を吐いた。
「ここのところずっとそうだ。お宝探しにも行かないで、俺のバトルをまるで見ようとしてくれない。どうしてだ!?」
「ここでやることがあるからよ。宇宙船を開けておくのはよくないってわかったじゃない?」
「ソルトがいるだろ! 俺……俺は、リリーに見ていて欲しいんだ。俺の魂を込めた全身全霊のバトルを! 俺の一番星に」
 レイは痛切な声で訴えた。
 その胸を締め付けるような言葉に、リリーは切なげに笑みのようなものを見せ、レイに傍に座るよう身振りで示した。
「ここに来て、レイ。私のレイ。あなたは誰よりも強くて、勇敢なバトラーだわ」
 レイの頬にそっと触れ、あやすようにリリーは囁く。
「情熱的で、危なっかしい……。ときにその炎が、あなた自身を焼いてしまうんじゃないかって、怖くなるほど」
「怖い……? 何が?」
「あなたが傷つくことがよ。こんなこと、私の自分勝手なのだけれど」
「……リリーは辛いのか? 俺がバトルすると」
 レイはわからないなりに、彼なりに考えようとしてくれた。リリーは優しく首を振る。
「自らを追い込むような戦い方をしているときのあなたからは、正直目を逸らしたくなるわ。お願いだから、私を不安にさせないで」
「大丈夫だ、俺は絶対勝つ!」
「そうよ、あなたは勝つわ。レイ」
 ぐっと握りこぶしを作って持論を展開しようとしたレイの拳を、リリーはそっと、だが強い意思を持って抑える。
「信じているわ。だから、あなたを疑っているわけじゃないの。けれど……わかってほしいの、あなたが危険に身を晒しているとき、私がどれほど胸を痛めているか」
「ううん……」
 レイは困り果てたように眉を下げた。リリーの言っていることが、レイにはぴんとこない。勝つことを信じてくれているのなら、何も不安に思うようなことはないはずだからだ。リリーはそんなレイの顔を見て、諦めにも似た笑みを浮かべる。わからないでしょう、あなたはそれでいいの、そんな風に、ありのままのレイを受け入れる。
「ごめんなさい。これは私のわがままなの。私の弱さなの……。あなたの痛みを受け入れきれない、私の弱さなの」
「リリーが弱いなんて、そんなことないさ! わがままなんかじゃないよ。ただ、その、やっぱり俺にはよくわからなくて……。俺のバトルを見ても、リリーは楽しくないのか?」
「すぐにもバトルがしたくなって、カードホルダーに指が伸びるわ」
 ふっと頬を緩めたリリーに、レイもそうだろ?とにやりと笑ってみせる。リリーは観念したように体を倒して、レイにもたれかかるように抱きついた。
「ごめんなさい。もう少し時間をちょうだい。私も努力するから。あなたももう一度よく考えてみて、レイ」
「んー……わかった」
 気は進まないようだが、仕舞いにはレイも微笑んで頷いた。
「私にいいところを見せようとして、無茶をしないこと。いい?」
「む、無茶じゃねえよ! 一番かっこいくて熱くてスカーっとするバトルをリリーに見せようと……あてっ」
 リリーに鼻の頭をぴん、と叩かれ、レイはぎゅっと目を瞑った。
「それが最大の理由よ。私の存在があなたに悪影響を与えてしまうのが一番いやなのよ」
「それは逆だよ、リリー」
 レイは赤くなった鼻を押さえながら、真剣な顔をした。
「リリーが見ていてくれるから、俺はもっと強くなれるんだ。リリーが傍にいてくれるから、俺はもっともっと輝ける」
 そういってにっこりと笑う表情は、初めて会ったときに向けられたものと寸分違わない。
「レイ……。私の一番星。私はあなたの隣で一番輝けるの」
「誰よりも輝くたった一つの星だよ」
 レイに抱き寄せられ、リリーはその胸板に顔を埋めた。

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