受け取りやがれ!
ステーションから戻ったレイとドラゴンのムゲンは、宇宙船一番星号のコクピットに入った。運転席に座っていた女性は髪を背中に払い、椅子をくるりと回して振り返ると、二人を出迎えた。
「お帰り、レイ、ムゲン。早かったわね」
「救難信号とあっては一番乗りしないわけにはいかないからな!」
レイは腕まくりをする勢いでリリーの隣のシートに座る。
リリーは画面を救難信号の発信元の星に切り替えた。
「地球からの発信よ。目標地点まで宇宙距離三○九。ルート設定済み。いつでも出発OKよ」
「よっし! 一番星号、発進!」
操縦桿をぐっと後ろへ引く。待っていたとばかりに一番星号はエンジンを最大出力まで一気に点火、ステーションから勢いよく飛び出していった。
そのころ地球では。
救難信号を発した姉弟が銀河三羽烏と名乗るギルドにバトルで破れ、大切なコンパスを奪われてしまっていた。レイが地球に乗り込んできたときにはときすでに遅く、すべては決してしまっていたのだった。
コンパスを奪われた弟、リクトは涙を目に溜め、レイを睨んだ。
「遅いよ! コンパスはもう取られちゃった!」
三羽烏はコンパスを得意げにひけらかす。レイは彼らを見据えると、デッキを取り出しターゲット・ロックオンした。
「悪党の上前撥ねようっていうの!?」
リクトの姉、ライラは軽蔑したように言うが、まあ見てなって、とムゲンとリリーに意味ありげにウインクをされてしまった。
「この展開、なんだか私たちの出会いを思い出すわね」
リリーはボックスに座してバトルフィールドを見下ろし、右陣地側に燦然と立つレイの変身した姿――灼熱のゼロの背を見つめて、懐かしそうに目を細めた。
時は少し遡る。
リリーは故あって一人旅を続けていた。そこへ、今の姉弟を襲ったギルド三羽烏のような悪党が現れ、リリーにバトルを挑んだ。リリーは同じように救援を求めた。
「あなたがほしがるような宝物は持ってないわよ」
「いいや、俺は一目見て手に入れたいと思ったね。その宝は……お嬢さん、あんた自身だ!」
「はあ!? 寝ぼけたこと言わないでよ!」
しかし困ったことに悪党は本気も本気、マジである。
「私に見合う対価なんてないでしょう!? あなたなんか、私はお金を払われてもいらないわよ!」
「ぐっ……威勢のいいお嬢さんだ……ちょっち傷ついた」
男はがくりと肩を落とす。しかし諦めの悪い性質らしく、胸元から光り輝く宝石を取り出してリリーに見せ付けた。
「だがダイヤは傷つかない……。お嬢さんの美貌のようにな。どうだい。天然もの500カラットのダイヤだぜ。これなら釣り合うだろ?」
「ほっ、本物なの……!?」
まばゆいばかりの輝きに、思わず唾を飲むリリー。
バトルは成立した。二人は戦闘服に身を包み、バトルフィールドへ飛び込む。
「しょうがないわ。挑戦は受ける! どんな悪党相手だろうとね。そして勝つ! 私が私であるために! 私は誰にも屈しない!」
かくして勝敗は決まった。地上へ戻った二人の間に、救難信号を受け取った戦士が現れたが、全ては終わった後だ。リリーは一番星のレイと名乗った戦士の横を通り過ぎ、勝負に負けて地に伏した悪党の手からガラス玉を取り上げた。
「私の価値が、こんなフェイクの硝子玉と同じですって? は、馬鹿にされたものね」
リリーは硝子玉を地面に落とし、踵で踏み潰した。
「バカだな、本当に」
思わぬ肯定をされて、リリーはレイを振り返る。
「君みたいな女の子、いくら宝石積んだって足りるわけがないのにさ」
レイの笑顔はどこまでも純粋で朗らかだった。このとき向けられた何よりも直向で深く澄み切った愛情を、リリーはきっと一生忘れない。
「俺は一番星のレイ。君の名前を教えてくれよ!」
「……いいわ。レイ。私はリリー。リリーよ」
「リリー、俺と一緒に銀河の一番を目指そうぜ!」
「あなたもカードクエスターなのね。いいわよ。……じゃあ、ターゲット!」
リリーはそのカードをレイに差し向ける。
「私は私自身を賭ける。あなたは何を賭ける?」
「当然、真っ赤に燃えるこのハートだぜ! 受け取りやがれ、リリー! ゲートオープン、界放ッ!!」
「……灼熱のゼロ。あなたの炎は見るたびに輝きを増してる気がするわ。私の心を強く、熱く照らす灼熱の炎」
リリーは勝負の行方を見守りながら、微笑を浮かべた。
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