決着 [ 36/37 ]



 異邦のものが立ち上がり、中からエルザが吐出された。
 カナンの力が途切れ、異邦のものを抑えていた障壁が消えてしまう。

「まずい!」

 異邦のものがみるみる回復していく。失敗したのか。身体から血の気が引いていった。
 そんな。それじゃ、ルナは。

「ルナーっ!!」
「ユーリス、待て!」
「離してくれ、セイレン!」

 セイレンが強い力で僕の腕を掴み、怪物に飛びつこうとしていた僕を引き止める。そうする間に、怪物の鎧は全身を包み、光る中央部をすっかり覆ってしまった。

「エルザさん、大丈夫ですか」

 マナミアがエルザを助け起こす。エルザは地面に伏して、ぼろぼろになったカナンを見つけた。

「カナンッ……!」
「ごめんなさい、エルザ。私障壁を維持できなかった」
「いや、十分だよ」

 エルザはカナンのほつれた髪を整えてやり、治癒術を施してくれたマナミアに礼を言った。

「クォークは目覚めた。中にはルナもいる」
「それじゃぁ……!」
「だから、大丈夫だ」

 逆上した僕に、エルザはあくまで落ち着いた態度で答えた。中にルナがいるのに、異邦のものが動き出してしまったんだ、大丈夫なわけない。
 エルザは怪物に向き直り、迎撃の体勢を取る。
 怪物は完全に回復して、天に向かって吠えている。
 けれど、その矛先をこちらに向けてこようとはしなかった。

「どうしたんだ?」

 セイレンは怪物の行動を訝しむ。

「クォークだ」

 エルザはまっすぐに、怪物の中央部に視線を向けていた。

「皆、もう一度あの身体を壊すんだ!」
「わかりましたわ!」

 エルザの指示に、マナミアが真っ先に答えた。そうか、そういうことなら。

「最後に一発、どでかいのをお見舞いしてやろうじゃないか」
「くっそ、絶対ルナもクォークも助かるんだろうな! 助けてやるぞ!」

 いまいちわかっていないだろうセイレンも、仲間たちを信じて剣を構え直した。

「時間を稼げばいいんだろ。いくぜ、影縫!!」

 セイレンが怪物の動きを止める。長くは保たないけど、それで十分だ。

「いっけー!」

 マナミアの森とカナンの光、そして僕の炎。
 三種類の魔法が一つになって、怪物の鎧を打ち砕く。

「うおおおおおおおおおッ!!」

 エルザが気合と共に飛び出し、再びむき出しになった怪物の中核へと、剣を振り被り、突き刺した。
 青の力と赤の力がぶつかり合う。まばゆい光が広間全体に広がった。あまりに眩しすぎて、何も見えなくなる。すぐそばにいるはずの仲間も、怪物の姿も、自分の足元さえも覚束ない。

 どれくらいの時間、そうしていたんだろう。

 やがて光が消えて、目が薄暗い空間に慣れていく。
 少しずつ辺りの状況がはっきりと、鮮明になっていった。
 そうして、広間を見回すと、もうどこにも、あの巨大な異邦のものの怪物がいないことがわかった。

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