ビックバン [ 34/37 ]



 猛攻は、着実に敵の力を削いでいた。
 削ぐたびに、敵の身体は再生する。クォークの命を使って。
 でも――それでも、やらなくちゃ。

「ルナ」

 後ろで詠唱をしていたはずのユーリスが私を呼ぶ。

「来てくれ!」

 考えている暇はなかった。私はユーリスに従う。ユーリスは手を差し出した。私はそれを握りしめる。その途端、ユーリスはぐっと腕を引いて、私の身体を引き寄せた。

「僕一人じゃ、まだ足りない。一緒に炎を撃って」
「一緒に?」

 魔力を合わせて魔法を合体させるなんて、荒業だ。
 そんなこと、考えたこともなかった。

「できるの?」
「僕に合わせてくれればいい。魔力を調節する方法、教えたろ?」

 ユーリスの手のひらが、私の手の甲を包み込む。あの森で、炎を操る練習をしたことはちゃんと覚えてる。お蔭で無駄がなくなって、少しだけ質の高い魔法が撃てるようになったんだ。

「その要領で、僕の呼吸に合わせるんだ」
「……わかった。やろう!」

 ユーリスに力を委ねればいい。それなら簡単だ。
 私はユーリスの隣に立ち、クォーク……異邦のものと向かい合う。
 その鎧を引き剥がして、返してもらうんだ。
 私の大切な人を!

 ユーリスが詠唱を始めると、周囲の空気が渦を巻き始めた。ユーリスを中心に、渦は加速し、熱を帯びる。私はその渦の流れを感じるのに集中し、それに乗せて、自分の力がユーリスに届くよう、心を合わせた。
 熱い。吹き上がるような熱。
 これが、ユーリスの魔力なの?
 とても熱くて、力強い。
 このまますべて吸い尽くされて、溶けてしまいそう。

「うっ……!」

 揺らぎそうになる意思をぐっと抑えこんで、魔力をユーリスに注ぐことに全意識を集中させる。
 かき集められた魔力が、ユーリスの頭上で巨大な火の玉を形作る。
 なんて大きくて、熱い炎。
 こんなにも強大な力を、ユーリスはわずかに眉をしかめながらも、完璧に使いこなしていた。吸い上げられた魔力は無駄なく、すべてが炎へと変換されて、さらに増幅され、より高温になり、力を増した。
 限界ギリギリまで魔力を放出する。
 すべての力を、ユーリスに託す。
 私達の力が、一つになる。

 どうかこの炎が、悪しき者だけを焼きつくして浄化してくれるように。

「ユーリス、お願い……っ、行ってッ!!」
「うおおおおおッ! これでも、くらえーッ!!」

 ビッグバンの火球が解き放たれた。
 巨大な炎の塊が、いくつもいくつも、怪物の上に、正確に落下する。
 炎は目にも鮮やかに、怪物にぶつかって弾け飛んだ。飛び散る火花と共に、怪物の表面を覆う鎧が剥がれ落ちていく。
 怪物が唸り声を上げた。
 崩れたその体は、今度はなかなか再生しない。鎧が剥がれると、その下に隠れていた細身の肉体が露わになった。中心部は、光に包まれている。その光が、全身を流れていて、まるで血液のようだった。
 その中に何かが見えた気がして、私は目を凝らす。
 まぶし過ぎて、目を細める。
 お願い、お願い、クォーク、目を覚まして。

 怪物はふらりと立ち上がる。

「やはり、片方だけでは不完全か……。ルリの異邦のものを、この身に取り込まねば」

 さらなる力を得るため、怪物はカナンに手を伸ばそうとした。

「そんなことはさせない!」

 エルザがそれを阻止する。

「エルザ! 異邦のものの力は、やつの身体の中心に集まってる!」

 ユーリスが叫んだ。カナンも、そこから溢れる生命力が、異邦のものに注ぎ込まれているのがわかると言った。つまり、クォークの身体が、その中心にある。あの光の中に。

「上から飛び乗れば、中央まで剣が届くはずです。そこを破壊すればきっと。ですが……」
「……構わないさ」

 マナミアは口を噤む。マナミアが言い淀んだ理由が、エルザにも痛いくらいにわかっている。エルザは堪えるように言った。
 決着を付けるつもりなんだ。

「こんな戦いの為にたくさんの血が流れた……もう嫌なんだ……」

 エルザはクォークを止められなかったことを悔やんでる。
 もしもっと早く気づいていたなら。でもそれは、ここにいる皆の思いだ。皆、ずっとクォークと一緒にいたのに。それなのに、誰も気づいてあげられなかった。

「これ以上悲しいのは……もうたくさんだ!」
「エルザ! だめ!」

 エルザが怪物に向かって行く。私は剣を投げ捨てて、なりふり構わず走った。

「お願い、待って! これで終わりなんていや!」
「ルナ!」
「そうだよ、エルザ!」
「ユーリスまで!?」

 私は決着を付けようとしていたエルザを止める。ユーリスが一緒に来てくれるとは思わなかったけれど、すぐに心強さに変わった。

「異邦のものの力が弱まってる今なら、押さえ込めるんじゃないかと思うの」
「異邦の力を? でも、ここまでになってしまったら……」
「エルザ、君の異邦の力は、蘇生の力がある。それでクォークの生命力を呼び覚ますんだ。そうすれば、クォーク自身が異邦の力を押さえ込める」
「待てよ、そんなことしたらこのバケモンがまた回復しちまうってことだろ!」
「させないわ!」

 息せき切って私が提案すると、ユーリスが補足してくれた。エルザは心を揺さぶられて、でもセイレンがそのリスクを指摘する。
 なんとかうまくいかないだろうか、と考えていたら、カナンが名乗りでてくれた。

「私の障壁の魔法で、異邦の力がクォークに流れ込まないように、やってみる」
「それなら……うまくいくかもしれませんわ!」
「カナン……できるのか?」

 エルザは信じられない、けれど信じたいと、縋る思いでカナンに訊ねた。カナンは目を閉じ、胸元に手を添えると、微笑んで頷いた。

「この人はあなたの大切な人なんでしょう。なら、私も助けたい。異邦のものが、力を貸してくれる」
「それなら……!」

 まだ希望はある。諦めなくても、いいかもしれない。
 エルザの瞳が輝く。セイレンは剣を収めてくれた。
 詠唱を始めたカナンの身体が、ふわりと浮かび上がる。
 白く清浄な光が、その身体から放たれた。

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