ずっと一緒に [ 32/37 ]



 ふと目の前が明るくなった。目が眩むけれど、立ち止まらずに走る。すると何か柔らかいものにぶつかった。恐る恐る目を開く。光に慣れてみると、そんなに明るい場所じゃなかった。不思議な石で囲まれた場所。光源は、石の微かな発光、それだけだった。

 目の前にはクォークの背中があった。
 私がぶつかってしまって、クォークは立ち止まり、そしてゆっくりと振り返った。
 振り返ったその人は、私のよく知る困ったような笑みを浮かべていた。

「……どうして来た、ルナ」
「ずっと探してたんだよ」

 今すぐクォークが走りだしてしまいそうで、私はしっかりとクォークの服の裾を握りしめる。本気で振り払われたらきっと追いすがれない。でもクォークは、そんな私を見て軽く笑い声を立て、服を握っていた私の手を優しくつかみ、裾を離すように促すと、代わりに自分の手を握らせた。
 クォークの手は大きくて、ごつごつしてる。

「ずっと、合流できなかった。だから……もし会えるとしたら、ルリ城じゃなくて、ここなのかもしれないって思った」
「お前には、バレてたのかな」

 私は首を振った。
「調べようとしたけど、詳しいことはわからなかったの。私が調べてること、気づいてた?」
「人に指摘されてね。でも放っておいた」
「どうせわからないから?」
「わかっても、わからなくても、どっちでもよかったから、かな」
「クォーク、こんなに隠し事が上手だなんて知らなかった」

 私が拗ねると、クォークは悪いな、と私の頭を撫でた。

「クォークは騎士が嫌いだったのに、どうして騎士になろうとしたの?」
「それが、傭兵である俺達が、まっとうに生きられる唯一の道だったからさ」
「どうしてトリスタ将軍を殺したの?」
「なんだ、やっぱり知ってるんじゃないか」
「さっきわかったの」

 これまでのクォークの行動、その周囲の出来事を、改めて考えてみたら、トリスタ将軍殺害の犯人は、クォーク以外にいないとしか結論が出なかった。

「クォークがあの場所に、ザングルグもたどり着けなかった異邦のもののある場所の近くに立っているのを見て、ようやくわかったの」
「すごいな、ルナは。立派な密偵だ」
「違うよ。遅すぎたもの。全部が終わってしまった後にようやく気づくなんて、馬鹿だよ。出来損ないだよ……」
「そんなことはないさ」

 クォークは俯いた私を、励ますように肩を叩く。

「俺が気付かれないようにしてたんだ。お前を巻き込みたくはなかったからな。トリスタの件は……それだけは、俺の私情だったから」

 そして、クォークは身の上話をしてくれた。
 彼の家族が、トリスタ将軍の率いる帝国軍に殺されたこと。
 クォークは仇がトリスタ将軍であることを突き止め、そしてルリ城にグルグ族を引き込み、仇を討つチャンスを作り出したことを。

「すべて計画の内だった。計画のすべては、あいつが――エルザが、あの力を手に入れたところから始まった」

 クォークは目を細める。私はクォークの胸板に頭を押し付けた。クォークはそれを受け止めてくれる。

「俺はグルグを引き込み、ルリ島を襲撃させ、トリスタ将軍をこの手で殺した。それで全部だ」

 じっとクォークの胸元に頬を寄せて、聞いている。
 クォークの声と、心臓の音。
 クォークは繋いでいる私の手の甲を、親指で撫でる。

「すべてを知って、それでもなお、俺の側にいるつもりか?」
「離れないよ。絶対に」

 決めたんだから。
 あの日、あなたに救われた、あのときに。
 クォークが息を呑むのが聞こえた。

「……ありがとう」

 その声は震えていた。

「俺にそんな資格はない……だが、どうして手放せる? こんなに暖かい温もりを……」

 クォークは片腕で私を抱き寄せた。私はクォークの腰に腕を回す。
 逞しくて、頼りがいのある、大好きな人の身体。
 きっとずっと、一緒だから。
 もう、離さないで。
 一人でなんて、行ってしまわないで。

「あいつの持つのはミスラの力。俺が持つのはアトラの力。二つの力は潰し合い、どちらかを消滅させずにはいられない。――戦いは避けられない。それにあいつは、俺を許さないだろう」
「どうして戦わなくちゃいけないの。……どうしても戦わなくちゃだめなの?」
「すぐに終わる。お前はここで――」
「一緒に行くからね」

 解かれそうになった手を、私は強く握る。
 向こうで待っているのは。

「私達の仲間だから」

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