呪いは無情に [ 29/37 ]



 ゼーファを倒し、次の道へ急いで向かうと、道の反対側の出口に、ちょうどザングルグが姿を消すところだった。
 その出口の前には、ゼーファの弟、ゼーシャが立ち塞がっていた。
 ここでセイレンとジャッカルが合流し、私達は全員でゼーシャに立ち向かい、そして勝った。
 ゼーシャは滅び行く瞬間、ゼーファと同じ言葉を口にした。

「我が王、ザングルグ様の元に、恒久の繁栄を……、そして人間どもに、永久の呪いを」

 しかし、呪いはそこでは終わらなかった。

「終わり無き幻の兵士を呼び起こせ……我が命を、その礎とせん」

 その言葉が終わるや、どこからかグルグの兵士が湧き出してきた。

「さっきのやつ、死に際に呪いを残してた。それで」

 兵士は次々と出てくる。ユーリスは臍を噛んだ。
 先を急がなくちゃいけないのに。私はユーリスを見る。ユーリスは頷いて、エルザを振り返った。

「エルザ、ここは僕らに任せて先に――」

 ユーリスの視線の先で、倒したはずのゼーシャが、ゆっくりと身を起こした。剣に、最後の魔力を溜めて、放つ。
 その先には――

「セイレン!」

 ジャッカルの声だったのか、自分の悲鳴だったのか、わからない。一瞬、私は目の前が真っ暗になる。
 目を開ければ、見たくない現実があるのがわかっていて、恐ろしかった。
 誰もが言葉を失ってる。
 どうして。
 なぜ、こんなことが――

「――ジャッカル!!」

 セイレンの泣きそうな声がすぐ側で聞こえた。
 セイレンはジャッカルを抱えて何度もその名前を呼んでいる。ジャッカルの胸の中心には、深々とゼーシャの剣が突き刺さっていた。

「うそ……」

 私は力が抜けそうな身体を突き動かされるようにして、ジャッカルの側へ走る。

「ジャッカル! ジャッカル!」
「やられたわ……」

 ジャッカルは力なく笑みを浮かべる。
 急いでマナミアを見たけれど、マナミアはジャッカルに駆け寄って魔法を掛けようとはしない。ただ静かに、首を振るだけだった。とてもとても、悲しそうに目を伏せて。

「そんな」

 ジャッカルの方も、泣き喚くセイレンに、仕方ない奴だなとでも言いたげな笑みを向けるばかりだ。身体に触れたら、とても強張っていて、冷たかった。

「おい、ルナ。こいつを連れて、さっさと行けよ。いつまでここにいるつもりだ?」

 いつもの調子で、軽口を叩こうとするジャッカルに、涙が湧き上がる。それをぐっと飲み込んで、セイレンの手を握った。
 セイレンはそれを振り払う。私は何度も振り払われて、それでも諦めずセイレンの腕をしっかりと掴んだ。

「いやだ、いやだ! 嘘だろ、ジャッカル、嘘だろ!」

 私は涙を堪えるので精一杯で、何も声を掛けられなかった。ジャッカルは苦痛に耐えながら、それでも笑みを絶やさず、セイレンを突き放す。

「ジャッカル。……行ってくる」

 エルザがジャッカルに背を向けた。マナミアがそれに続く。ユーリスは私を見て、私はセイレンを引きずるように、歩いた。

「ザングルグを、止めなくちゃ」

 だから私達は進まなくちゃ。
 ジャッカルを置き去りにしても。

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