三つの扉 [ 27/37 ]
そこからの道は、3つに分かれていた。
この中のどれかが、ザングルグの進んだ道だ。
ジャッカルは二人ずつに別れて進むことを提案した。
そうすれば、どの組かは必ずザングルグに辿り着ける。でも、戦力が三分の一になってしまって、戦えるかどうか不安が残る。
「僕は賛成だ」
そう言ったのはユーリスだった。
「あの扉を抜けて、ここに戻ってこれる保証はないし、僕達の目的は、戻ってくることじゃない」
低くつぶやくその台詞に、私ははっとする。
ザングルグを止め、異邦のものの悪用を止めるためには、それくらいの覚悟がいる……でも。
ユーリスの口ぶりが、どうしてか不安を煽った。
「もう時間がない。誰かがザングルグにたどり着く、その可能性に掛けるべきだ」
エルザもジャッカル、ユーリスに同調した。
皆、覚悟を決めてる。私は皆の顔を眺めた。もしかしたら、ここで別れてしまったら……もう。
「だけど必ず、必ず生きて帰ることを諦めないでくれ」
私の恐れを拭い去るように、エルザが強い口調でそう言った。それは皆の思いだった。
「絶対にまた、皆で会おう」
私は笑みを作って、皆を見つめる。皆も、微笑み返してくれた。
ただユーリスだけは、背を向けて、ひとつの扉に向かって歩き出した。
「決まりだね。僕は行くよ」
「待って、ユーリス!」
慌ててその背中を追いかける。
セイレンも叫んだ。
「一人じゃ無理だ!」
「僕には戦士だった父さんの血だって流れてる。心配いらないよ」
「それに!」
私はユーリスに駆け寄って、その手を掴んだ。
「一人じゃないもんね」
「……っ」
ユーリスはびくりと身体を揺らし、目を丸くして私を見つめたけれど、何も言わなかった。
「セイレン、皆! 後でね」
「ルナ……っ! ユーリス、ルナは任せたぞ!」
「ちゃんと守ってくださいね」
「怪我させたら承知しねえぞ!」
「はいはい……そんなの、言われるまでもないさ」
ユーリスはちらりと振り返ると、ジャッカルに余裕の笑みを返した。
「そっちこそ、自分の心配したら?」
そして私の手を取り、握りしめる。
微笑んでくれた顔は頼もしくて、なんだか男らしいくらいだった。
「ちゃんとついてこいよ、ルナ」
「……うん! 頑張ろうね」
「じゃあ、後でね」
私達は仲間たちに別れを――そして再会を告げて、扉をくぐった。
「ユーリス、私が先行する。魔法、よろしくね」
「君にエルザの代わりなんて望んでないからね。ほどほどにしといてよ」
剣を手にやる気満々の私に対して、ユーリスの言葉は冷たい。
そりゃ、エルザほど強くはないけど、でも剣の腕だったらユーリスよりは強いんだから。
「大丈夫! ユーリスには矢一本だって近づけさせないから!」
フロアには、魔法の矢を放ってくる敵が待ち構えていた。姿勢を低くして、敵の側まで近づき、剣でなぎ払う。一体目!
立ち上がった私に、他の敵が放った矢が向かってきた。その矢は、私の目の前で炎に焼きつくされる。
「ナイス、ユーリス!」
「ぼさっとしない!」
「オッケー!」
炎を避けながら走り、矢を放ってきた敵を倒す。
すると、私達が立っていたフロアががくんと揺れて下へ動いた。
「わ、リフト?」
「このまま下へ降りて、どこへ連れて行かれるのやら」
「私達が一番乗りかな」
「当然」
ユーリスはにやりと笑う。
その笑顔がとっても頼もしくて、鼓動が高鳴った。
この不思議な場所に来てから、ユーリスはよく笑ってくれるようになった。
ずっと緊張した顔ばかり見てたせいなのかな。なんだか、やけにユーリスの笑顔が眩しいんだ。
「あのね、不謹慎かもしれないけど」
「何?」
「今すごく楽しいって言ったら、怒る?」
「呆れる」
そう言ったユーリスの表情も綻んでいた。
戦場のまっただ中で、これから今までで一番手強い敵と戦わなくちゃいけないっていうのに、変だね。
そんな、大変な状況の中で、隣にユーリスがいて、一緒に戦ってくれていることが、こんなにも嬉しい。
クォークとも、皆とも。
きっと、ここを無事に抜けることができれば、また笑い合えるから。
今は心から、そう信じてる。
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