要塞島へ [ 23/37 ]
なんて深い暗闇だろう。
硬く、分厚い石版が周囲すべてを囲んでいる。空気は淀み、重苦しいまでの圧迫感に呼吸するのも辛く感じる。
太陽の光に照らされて、どこまでも遮るものなく広がる大地があることを知った後にこんな場所へ戻ってくると、改めて、自分がどれほど狭苦しい場所で生かされていたのか、思い知った。
「ルナ、呼吸が荒くなってる。疲れてるの?」
「ううん……。平気」
ユーリスが心配して声を掛けてくれた。
一番先頭をエルザ、その後ろにカナン、セイレン、ジャッカル、マナミアが続いて、私達は列のしんがりまで下がってしまっていた。私が遅れてしまっていたんだ。ユーリスはジャッカルの後ろ辺りを歩いていたはずだから。
「ごめんね。ありがとう」
「え、いや」
お礼を言うと、ユーリスは面食らったように言葉を濁した。
いつもなら、勘違いしないでよね、君が遅くて逸れるんじゃないかと思ったからさ、そんなことになったら大迷惑だよ――なんて、くどくどとお小言をもらうシーンなのに。
そんなこと、言ってる場合でもないか。
私達は今、敵の本拠地に――グルグの砦の最奥に、向かっているのだから。
もう、何体魔物を倒したのかわからない。
奥へ進めば進むほど、呼吸が苦しくなってくる。
疲れてるから? もうこれ以上打てないっていうくらい、魔法を打ち続けてる。
この戦いは、いつ終わるのか全然見えない。
「ここね、似てるの」
「どこに?」
「私が育った場所に」
今は、魔物の気配は遠い。それでも皆気を張ったまま、慎重に道を進み、角を曲がる。
「息苦しくて、狭くて、暗くて、太陽の光から、とても、とても遠い場所……」
そう、こんな場所だった。
ユーリスが何か言いかけたけれど、言葉を飲み込んだみたいだ。
結局何も言わなかった。
「ずっと忘れてたくらいだったのに。だってずっと……楽しかったから」
「ルナ」
ユーリスの気配が、ちょっとだけ優しく、柔らかくなった。
「そんなの、僕だって……皆だって、同じ気持さ」
微笑んでそう言ってくれたユーリスの言葉が思いがけなくて、思わず立ち止まってしまう。ユーリスは足を止めて、私に手を差し伸べた。そんな私達に気づいて、マナミアが、ジャッカルが――皆が、振り返る。
「君が仲間になってから、ずっと。楽しかったよ」
「……うん!」
胸が温かい思いでいっぱいになる。目頭が熱くなった。
ユーリスの手を握りしめ、一緒に走りだす。仲間たちの元へ。
「どーしたんだよ、ルナ?」
「疲れましたか? お腹も空きましたわよね」
「ルナちゃん、俺が手つないであげるよ!」
手を伸ばしてきたジャッカルを、セイレンがどつく。マナミアはちょっとだけしかありませんけれど、と持っていたチョコのかけらを分けてくれた。
私達が追い付いてくるのを待っていたエルザは、表情を引き締めて言った。
「ルナ、ユーリス、休ませてあげたいけど……もう少しだけ、頑張ってくれ。今はあいつを、ザングルグを倒さなければ」
私達は決意を固くして、頷く。
今までで一番の大仕事だ。
負けるわけにはいかない、絶対に。
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