地下水路 [ 22/37 ]
「君が無事でよかったぜ……ルナ」
「ジャッカル! ここにいたんだね」
「そうよーもう心配した! でもまだ安心できないから怪我はないかお兄さんに見せてご覧なさいぐほぁっ!!」
「おーうお前も元気そうだなぁ……と思ったらボッロボロじゃん」
私の方に向かってきたジャッカルにいつものようにセイレンが蹴りを入れた。二人とも、そうやって互いの無事を確認して、ほっとしてる。傍から見たら、そうは見えないかもしれないけど。
地下水路にはタシャさんが言っていた通り、ジャッカルやカナン、そして街の人達が避難していた。宿屋のアリエルや、知っている顔が揃っていてすごく安心した。
でも……。
「クォークの奴、どこに行ったんだ」
薄暗い水路の中を、きょろきょろ目を凝らしていたら、ユーリスが怒ったような口調で呟いた。そう、ここにもクォークの姿はなかった。
エルザが皆の様子を見て回る間に、ユーリスとマナミアと二人で怪我をした人たちの手当をした。薬草や包帯なんかを持って来ていた人がいて、なんとかここにいる人の分は足りた。
「はい、これでもう大丈夫だよ」
「うう、痛いよ」
「男だろ、泣くな」
足を怪我した男の子は、薬草が染みるのか眼を潤ませる。どうやって励まそうかと考える前に、ユーリスが叱咤した。
「母さんと一緒に来たのか?」
「……うん……」
男の子の側には女性が一人寄り添っていた。他に家族は見当たらない。女性は辛そうに唇を噛んでる。
「今、母さんを守れるのはお前だけじゃないか。そうだろ?」
「ぼくしか……?」
男の子は涙を貯めた眼でお母さんを見上げた。お母さんは、男の子の肩に手を置いて何か言おうとしたけれど、堪えるように俯いてしまった。
「おかあさん、ぼく、もう痛くないよ」
「そう……? 痛くない?」
「うん。お姉ちゃんが治してくれたから。痛くないよ」
「そうね。偉いわね。ほら、お姉ちゃんとお兄ちゃんにお礼を言いましょう」
「はい! お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう」
そう言った男の子の顔からはもう涙はなくなっていて、本当に痛みを忘れているようだった。
「頼もしいね」
小さな男の子の勇気に、私達の方が励まされる思いがする。
ひと通り治療を終えて、まだ怪我人がいないかと見渡すと、ユーリスが曇った顔で子供たちの顔を一人ひとり確認していた。
「城の子供たちがいない……。心配だな」
ダイナちゃん、ダイアくん、ソリーナちゃん、ウルくん、メビウスくん。彼らの小さな姿はこの薄暗い水路には見当たらなかった。
「きっと、他の安全なところに避難してるよ」
「……そうだね」
ここ以外にも避難場所はあるはずだ。クォークがここにいないということは、別の場所に人々を誘導したってことだ。
今はそう信じるしかない。ユーリスも死ぬほど心配には違いないけれど、振り切って立ち上がった。
「今のところ、グルグ族もここには気がついていないみたいで」
アリエルの言うとおり、ここならしばらくは安全そうだ。
けれど、水路の奥から物音が聞こえてくる。この水路はどこに続いてるんだろう。
「奥に行きましょう。先手必勝ですわ」
「あたしも賛成だ。じっとしてるのは性にあわねえ」
マナミアとセイレンはやる気だ。ジャッカルもエルザも、言うまでもない。ユーリスを見ると、ユーリスは小さく笑って頷いた。
「行こう、エルザ」
「ああ、ルナ」
街の人を守るために、何人かの騎士もここに来ていた。彼らは何ヶ所かある入り口の前に、敵の侵入を防ぐため、お飾りではない本物の剣を手に、立ちふさがっていた。
彼らに後を任せ、私達は音の正体を確かめに、水路へと踏み込んでいった。
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