ぱちり、と自然に目が覚めた。時計針が示す時刻は午前5時、ここ数年変わらない起床時刻は、どれだけ前日に疲れていても変わらない。
所謂『そういうこと』をした翌朝でも、それは同じだった。
高校生男子が並んで横になるには狭いベッドで寝返りをうつ。すぐ傍には恋人の寝顔があった。

「……」

寝ているせいか、起きているときより幾分幼く見える佐治の表情に吏人は口元を緩める。
長い前髪に触れる。金に染まったそれはさらさらと流れていく。

こんな気持ちを抱くのは初めてだから、上手い言葉が吏人には見つからない。
胸の奥のほのかなあたたかさが、じわじわと全身に広がっていくような、なんとも言えない心地。

「…起きっか」

一度顔を洗ってこようと静かにベッドを出る。もう毎日の習慣だから自然と体も動く。
今日は日曜だし二度寝をするのも悪くないが、午後からは練習もする予定だ。起きていていけないことはない。
顔を洗って水を飲んで、部屋へと戻る。ドアを開けると、佐治が上半身を起こしていた。

「……あ」
「すんません、起こしました?」
「…いや、お前のせいじゃねぇ……」

まだまだ眠そうに佐治はゆっくりと喋った。案の定布団にもぐっていく。吏人はベッドに腰掛けた。

「……なあ」
「はい?」
「どこ、行ってた」
「顔洗いに」
「…そっか、だよなあ……」
「…なんスか?」
「…うーん」

佐治は吏人との間を少し詰めて、吏人の手の甲に自分の手を重ねた。

「…いなくなったかと思った」
「は?」

佐治の視線は重なった手に向いている。

「なんつーか……別にオレ女じゃねぇし、ムードとかそこまでこだわんねーけどさ…」
「……」
「目ェ覚めて一人なのって、…なんかムカつく…」

ぎゅ、と佐治が吏人の手を握った。

「……違うでしょ」
「あー?」

なにこの人、可愛過ぎる。
それはつまり、あぁもう。

「…『寂しい』…でしょ?」
「…………いやいやいや」

数秒間固まった佐治は吏人の顔を見て再度否定したが、本人は顔が少し赤くなっているのに気付いているのだろうか。
そんな状態では肯定しているようにしか吏人には思えず、思わず笑ってしまった。

「わ、笑ってんじゃねーよ!」
「だって佐治さんが可愛いこと言うから」
「かわいくなんか、ねぇっつーの!……あーもう、オレもっかい寝るからな!起こすんじゃねーぞ!」

そう言って、佐治は吏人に背を向けて布団をかぶってしまった。
そんな行動も可愛く思えてしまう自分は、想像以上にこの人にハマっているらしい。

「佐治さん」
「……」
「佐治さーん」
「……」
「さーじーさーん」
「んだようっせーな!」

上半身を起こし勢いよく振り返った佐治の腕を取って止める。

「好きっス」

さっきとは違う真面目な声。
きちんと佐治の目を見て一言、それが言いたくなった。
佐治はワンテンポ遅れて、静かに相槌だけ打つ。

「……おう」
「いつもの佐治さんも…オレしか知らない佐治さんも好き」
「……う、」
「オレこういうの初めてなんス。上手く言えないけど、…それだけは知ってて下さい」
「……っ」
「好きです」

言い終わると、みるみるうちに佐治の頬の赤みが強くなった。
腕を離すと佐治が小さく呟いた。

「……んなの…」
「え?」
「…っそんなの、オレだって、同じだっつーの!!」
「……っ」
「なんだよ、テメェばっか好きみたいな言い方しやがって!!オレ、だって、なぁ…っ!!」

佐治は続けようとしたようだが自分の前髪をぐしゃりと掴んで、そこで止まってしまう。
しかし吏人には十分過ぎる言葉だった。思わず佐治を抱きしめて、肩に頬を寄せる。
密着して初めてわかる、この人の早鐘にたまらなくなる。

「…佐治さん、も」
「ん」
「同じ、っスか」
「…そう言ってんだろ」

少し腕を緩めて佐治を見ようと顔を上げる。と、

「……っ」

静かに、佐治の唇が触れて行った。

「…ばーか」

くしゃりと崩れた顔はとても幸せそうに笑っていて、また全身にあたたかさが広がった。
こういうのは初めてだから上手い言葉が見つからない。見つからない、けれど。

「…はい」

まだ言葉は要らないだけなのかもしれない。この感情が何か、自然と解るまで。

カーテンの隙間から朝日が差し込む。気持ちの良い日曜の朝だった。




世界はそれを××と呼ぶ

(名前をつけるにはまだ早過ぎる)




―――――


××、なんてまだ解らなくていいと思うのです。


101115
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