「……寝んのも2秒かよ」

喉が渇いたと言うからわざわざ持ってきてやった麦茶を机に置く。
人が飲み物取りに行ってすぐ寝やがって、しかも人のベッドで。
落としてやろうかと思ったが、規則正しく呼吸する吏人の寝顔を見ていたらなんだか怒る気も失せた。
自分の麦茶を飲み、ベッドに腰掛ける。

「…ふーん」

寝ていてもムカつくくらい整った顔立ちだった。
普段はきちんとセットされている黒髪は、風呂上がりなことも手伝っておとなしい。いつもはあまり気にならない睫毛の長さも瞼を閉じているおかげで思わず見惚れてしまうほど。

サッカー上手くてイケメンって、もうあれだ。妬みしかねぇな。

そんなことを考えながら、何かに使えるかと思って写メを撮ってみたりした。……嘘じゃねぇぞ。別に吏人の寝顔とかレアだし、そんだけだからな!
などと自分で自分に言い訳しながら携帯を放り投げる。鈍く音を立てて散らかった机に落ちた。
吏人は起きない。

「……」

ふと。悪戯心がくすぐられた。
考えてみればこいつは後輩のくせに何故かいつも主導権を握っていて、振り回されて、しかもオレが下とか……キス、とかだって。
そこまで一人悶々として。……起きない、よな?

ぎしり、と。ベッドが軋む。

そう、ただの悪戯。
吏人に覆いかぶさる形で、唇を重ねる。触れただけなのに震える自分が情けない。
そう思ってうっすら目を開けた、と同時に。

「っ!?」

世界が反転した。いや、違う。

「…人の寝込み襲うなんて、佐治さんも可愛いですね」

ニッと意地悪く笑う吏人がオレの上に覆いかぶさる。体勢をひっくり返されたわけだ。

「テメェ、いつから起きてた…っ!?」
「今っス」
「嘘つけふざけんな!寝込み襲うとか言ったじゃねぇか!!」
「間違ってないっスもん」
「襲ってねぇぇぇ!!!」

ぎゃあぎゃあ騒ぎながらどうにか吏人から離れようと試みるが、両腕を捕らえられてダメだった。
あぁ畜生。顔熱い。

「……待ってたんですよ」
「は?」
「『佐治さんから』っていうの」
「……〜〜っ!?」

つまり、全て吏人の思惑通りだったというわけだ。それを理解するとやたらと恥ずかしくなる。
結局オレはこいつには勝てないのか。

「……チッ」
「?」
「なんでもねーよ」
「そっスか?じゃあ、もっかいしていいですか?」
「……勝手にしろ」

ふいと目線を横に逸らすが、吏人の機嫌良く笑う姿は容易に想像できた。

唇が重なる。吏人は遠慮なく舌を絡めてくるから、応えざるを得ない。
ちゅ、ちゅ、とリップ音を立てて角度を変えて。

「……っ」
「ん…」

唇が離れる頃には、もう吏人のことしか考えられないくらいに毒されて。
そうして満足気に笑う吏人は、直球で素直な甘い言葉を囁くのだった。




ミッドナイト・ラプソディ

(…恥ずかしさより嬉しさが勝るオレも相当こいつに惚れてる。)





―――――

わかりにくいですが佐治さんのお部屋です。
可愛い佐治さんが書きたかったのです…(´▽`)


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