不慮 U

罪があったとしたなら、それは間違いなく。
彼ではなく、俺のものだと。
そう、思った。


彼の沈黙は罪に非ず。


だからあの朝、俺は饒舌だったのかもしれない。





彼の腕を振り解いて、拒むのはきっと簡単なことだった。
体格差は僅か。
今ならまだ、アルコールに負けた彼が悪いのだし、記憶も曖昧なまま終わらせることができるはずだ。

けれど、思いもかけないほど熱い腕に組み敷かれた瞬間。
その熱を拒絶する術は無いのだと思い知る。



星の溶けるような睦言も。
名を囁いてくれることもない。



ただ酩酊した吐息に任せて、俺の体を貪るだけ。
月が沈めば、何もかも忘れているだろう。

彼は。


だから、自分で覚えておかなくては。



肌を這う指の温度を。
絡む唇の柔らかさを。
快楽の瞬間の、瞳の色を。
伏せられた睫の長さを。


身体の最奥に迸る、熱を。
不知の恍惚、歓喜。



「…酷いこと、するね」



いっそ、叫んでしまいたかった。
長い間、秘めてきた想いを。

焦がれた夜は、こんなものだっただろうか。



罪に燻されて、火の粉すら舞いやしない。


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