むくわれぬもの
旭ちゃんが晃歩に手を引かれて、教室を出て行く。

俺はその後ろ姿を、何も言えずにただ見つめた。


振り向いた旭ちゃんに、ちゃんと笑顔を向けられていただろうか?


自分の両頬をむにっとつまんで、ぐにぐにと上下左右に動かした。

そんな俺を見て少し笑いながら、椎が口を開く。

「…いいのか?響」

「い〜んだ。だって、」

そう。
最初っから分かりきったことだった。




報われることのない、想いだと。




「誰がどう見たって、両想いなのにさ〜。旭ちゃんも晃歩も鈍いっていうか、何て、いう、か」

のどの奥が少し重くなって、言葉につまる。
涙だけは流すまいと、きゅっと口をひき結んだ。

「そうだよなぁ…」

にじむ涙を見て見ぬ振りをして、椎が俺の頭をぽんぽんっと軽く叩く。

俺と椎のやり取りを黙って聞いていた奏太が突然口を開いた。

「っ…、ふ、ふられてカンパ〜イ!!」

紙パックのジュースを俺に向かってずいっと差し出す。

「……」

「……」

椎も俺も絶句して、奏太を見つめる。

「あ、アレ…?オレ、何か間違った!?」

ビクビクした様子で奏太がこちらを見つめるのが可笑しくて、俺の涙は自然とどこかへ引っ込んでしまった。


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