三日月を抱いて眠れ
イオルの抱えているハープをそっと取り上げ、長椅子の上に置く。
固い身体をほぐすように腰を撫で、腕の中に抱えて持ち上げた。
「ふ、わあ…!」
子どもっぽい声を上げた自分を恥じたのか、イオルは腕の中で赤くなり、俯いている。
不安げにハープを見、フィウゼーヌを見たかと思えば、おどおどと目を閉じた。
歌を歌っている時とは違う、もの慣れない仕草が可愛いらしくて、フィウゼーヌは微笑む。
「軽いな…。ベッドに行くのは、やめておくか?」
ここで、やめると言われれば逃がしてやろうと思っていた。
イオルが今、フィウゼーヌの腕の中にいる意味を理解していると感じて。
それでも、選ばせてやろうと思ったのだ。
深い緑を瞼の下に隠したまま、イオルはフィウゼーヌの首に腕を回す。
それは、答えだった。
全てを受け入れる、という。
イオルの細い身体をベッドに降ろして、衣服を解く。
一枚一枚、身体を包む布を丁寧に脱がせると、真綿のような柔らかな肌が姿を表した。
静かな闇の中。
互いを確かめるための光は空からのか細い恵みだけ。
フィウゼーヌはイオルの胸元を撫で、そこに目を奪われた。
胸骨から右のわき腹にかけて、痣がある。
痛々しいものではなく、上気した肌に馴染むような鮮やかな紅色。
形はまるで、三日月を思わせるような。
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