三日月を抱いて眠れ

「頂戴致します」

丁寧に杯に指を添え、朱唇に近づける。

アルコールの匂いに僅かに眉を寄せたが、躊躇なく杯を傾けた。

声もなく目を見開いて、慌てて杯を離したかと思うと咳き込む目の前の少年を見てフィウゼーヌは笑った。

「苦手なようだ。無理はしなくていい。酒は喉にも良くないから、飲む振りだけしていた方がいいなお前は」

喉を抑えて、少年は赤くなった目を向ける。

「イオル、です」

「ん?」

「僕の名前はイオルといいます。チェルニ様」

潤んだ瞳で見つめられて、そうか、と一言。

酒も満足に飲めない少年に、艶めいたものを感じて、フィウゼーヌは驚いていた。

じ、と濡れた瞳を見つめ返し、吸い寄せられるように腰掛けを離れる。

低い位置にあるイオルの顔を見下ろしていると、興味が湧いた。


一人で個室にあがるのは初めてだと言うのだから、無論、伽などしたことはないだろう。

そもそも宴のあとに部屋呼ばれる事の意味を、この少年は理解しているのだろうか?

「イオル」

名前を呼んで淡い月光の降り注ぐ頬に触れる。

顔を近づけると、何かを心に決めたかのように、きゅっと引き結ばれる唇。


一文字になった唇を優しく撫でるように口付け、緊張を解くように啄む。

ふ、と鼻から短い息を吐いたのを見計らって、朱を割って舌を入れた。

舌に意志を持たせて口の中を這わせると、僅かに抵抗を感じたが、今更止めることなどできはしない。



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