三日月を抱いて眠れ

窓の向こうの夜空の月が、か細い光で二人を照らす。

フィウゼーヌは杯に口をつけながら、少年に問うた。

「歌は?」

「歌えます。何を?」

指先は滞りなく動かしながら少年が答えたので、フィウゼーヌは『月』をテーマに歌をリクエストした。

少年は一考した後曲調を変え、しめやかな声で歌を紡ぐ。

『闇の岸辺にたどり着いた
旅を終えた舟
星の地図は腕の中にある
今こそ手に入れよう
あの銀[しろがね]を』

低い声に喉を震わせ、余韻を持たせて弦を揺らす。

短い歌だったが、即興とは思えぬ程の雅な調べだった。

フィウゼーヌは手を叩いて、少年へ杯を差し出す。

褒美のつもりでそうしたのだが、少年の眉は戸惑うように下げられる。

「酒は飲まないのか?」

フィウゼーヌの問いに更に困ったように笑って、ハープを抱き直した。

「実は…。一人でお部屋に上がるのははじめてなんです。ですから、こういう時…どうしていいか分からなくて」

心許なげに腕に包んだハープの一弦を弾いて鳴らす。
震えた音は、そのまま彼の心を表しているようだった。

「飲めずとも、勧められたら口をつけるのが礼儀だな。飲めるなら本当に飲んでもいい」

楽器や歌の慣れた様子とは裏腹に、たどたどしく杯に手を伸ばす仕草は、見ていて心を和ませるものがある。

見守るような気持ちで少年が杯を掲げるのを待った。



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